第15章:風の試練

 カイロスに導かれ、エリオスとリナは《幻影の谷》の奥へと進んだ。


 そこには、巨大な石碑がそびえ立っていた。表面には、古代文字が刻まれている。


 「これは……?」


 カイロスは石碑に手をかざし、言った。


 「この石碑には、風の試練が刻まれている。お前が星の記憶を解放するには、この試練を乗り越えねばならない」


 エリオスは頷き、剣を握りしめる。


 「どんな試練でも、乗り越えてみせる!」


 カイロスは満足そうに頷き、呪文を唱えた。


 すると、石碑が眩い光を放ち、突然、強風が吹き荒れた。


 「くっ……!」


 エリオスは風に耐えながら前を見据える。


 すると、目の前に黒い霧が渦巻き、異形の影が現れた。


 ――それは《闇の化身》だった。


 「これは……また《闇の使者》か!?」


 リナが警戒するが、カイロスは首を振る。


 「違う……これは、お前自身の『恐れ』が具現化したものだ」


 「俺の……恐れ……?」


 黒い霧の中から、エリオス自身と同じ姿をした影が現れる。


 「お前は強くなれるのか?」


 影のエリオスは、不気味な笑みを浮かべた。


 「お前は自分を信じているつもりだろう。でも、内心では恐れているんだ。自分には力が足りないと、世界を救うことができないと……!」


 「そんなことは……!」


 エリオスは剣を振りかざした。しかし、影のエリオスも全く同じ動きをし、攻撃を相殺した。


 「なっ……!?」


 「どうした? お前には勝てないぞ。なぜなら、俺はお前自身だからな!」


 影のエリオスは猛然と攻めかかる。


 エリオスは防戦一方になり、徐々に追い詰められていった。


 (違う、俺は……本当に、世界を救えるのか?)


 不安が脳裏をよぎるたびに、影のエリオスの力が増していく。


 「ほら、結局、お前は迷っているんだ……!」


 その時――


 「目を覚ましなさい!」


 リナの叫びが響いた。


 「エリオス、あんたが疑ったら、誰がこの世界を救うのよ! 自分を信じなさい!」


 エリオスはハッと目を見開いた。


 そうだ――自分が信じなければ、誰がこの力を信じてくれる?


 自分が弱さを認めずして、どうして前に進める?


 「……俺は、俺自身に負けない!」


 エリオスは剣を高く掲げ、星の欠片の力を解放した。


 ――ズバァァァン!!!


 眩い光が辺りを包み込み、影のエリオスはかき消された。


 風が静まり、試練の場に静寂が戻る。


 エリオスは剣を握りしめながら、深く息をついた。


 「やった……のか?」


 カイロスは微笑み、頷いた。


 「よくやった。お前は、自分の『恐れ』を乗り越えた」


 エリオスは胸の星の欠片を見た。


 それは、今までよりも強く、確かな光を放っていた。

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