オヒトリ様のぼやき

ハルカ

お題:書き出し指定「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 どの夢かって? もちろん、愛おしい相手と添い遂げる夢だ。


 われは人ならざる存在である。

 もう数百年も小さな村を守り続けてきた。いわゆる「村の守り神」というやつだ。今の暮らしにはおおむね満足しておるが、いかんせん田舎過ぎて出会いがない。

 その点、人間は良い。生まれ、出会い、伴侶を見つけることができるのだから。


 うらやましくなった我は、村長の夢枕に立った。そして村の若い娘を差し出すよう告げた。

 ところが、村人たちときたら驚くほど抵抗した。

 あるときは女装した男を寄越し、あるときは御年九十のウメ婆さんを寄越した。またあるときはよくできた絡繰り人形を寄越したりもした。

 我にそういう趣味はなかったので、すべて丁重に村へ返した。


 そんな攻防も7回目までは我慢した。我ながらよく耐えたと思う。

 だけど8回目、影で村人たちに「オヒトリ様」と呼ばれていることを知り、ついにキレた。

 神の威厳を見せるべく、沢をちょっと崩してみたり、村外れの高い木に雷を落としてみたり、与兵衛の田の一画を草だらけにしてやった(※なお、この出来事は後に「オヒトリの降臨」と呼ばれるようになった)。


 そして虚しくなった。

 我だって伴侶が欲しい。いちゃラブしたい。

 そんな甘い夢を見ていたら、9回目の正直が訪れた。

 神の祟りを恐れた村人たちが若い娘を差し出してきたのである。

 しかも、村を守るために自らの意思で神へ嫁ぐと決めた心の美しい娘だ。


 ところがその娘、たいへん悋気りんきが強かった。

 花を愛でれば嫉妬し、猫をモフれば嫉妬し、月がきれいですねと言っても嫉妬した。挙句にはいつか娘が死んだあとに娶るであろう後妻にまで嫉妬した。


 仕方なく我は娘に神と同じ寿命を与えることにした。

 すると、村人たちは神に近しい存在となった娘を崇め奉り始めた。

 娘もまんざらではない様子で、村へ温かな雨を降らせ、豊かな実りをもたらし、災いから守った。

 村はかつてないほど栄え、村人はますます丁寧に我らを祀った。


 我は愛おしい妻を迎えられ、妻は村人に感謝され、村人は豊かさを得た。

 まさにはっぴーえんど。

 何よりも嬉しいのは、二度と「オヒトリ様」と呼ばれなくなったことである。

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