第17話
何度も頭を下げてバスと駆け出す作家を見送って、エヴァはゆっくりと歩きだした。
あの地方都市へ、この街から向かったことはない。けれど、道のりは左目に焼きついている。何度も地図で探し、指で辿った。転々とする戦地でも、新大陸でも、首都の公邸でも、どこにいるときも。
白夜の街に氷のような風が吹きつける。刃物のような風がエヴァのショールを揺らし、こまかな雪でコートを濡らした。
あの街へ行かなければ。
グラステ。Dが破壊した私たちの故郷。
あなたはすべてを壊すことで、いったいなにを得たのだろう。
壊さなくても、彼女はあなたに微笑んだのに。
ニーナを愛していたから、Dは彼女を殺すために自分を的にして罪のない二十二人を殺した。人でなしの自分は愛されるに値しないからと、最愛の彼女ごと壊してしまおうとした。彼女に愛されようと努力もせず、最初から愛を得ることを諦めて。
――大抵、叩いたら壊れるからね。
偽善者の偽悪者。嘘つき。
叩いても壊れないものがあると、あなたは自分で証明してしまったではないか。〈了〉
あるDの誤解と後悔について 東雲めめ子 @nonomeme
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