第2話 拡大


 天下無双であるはずのプレイヤーをおいらがなぜか倒しちまった結果、その日の戦場はおいらたちの軍の勝利となった。


 その晩。兵舎に帰ったおいらは、他の仲間たちからの質問攻めにあった。


「八兵衛、いったいどうしたんだ?プレイヤーをぶっ殺すなんて」

「わかんねーだよ。なんか、ゆうべ夢の中に仙女様が登場して・・・・・・おいらに力をくれるとかなんとかいった結果、こうなったんだ」

「しかし、まさかプレイヤーをやっつけるとは・・・・・・」

「でもすかっとしたぜ。いつもおれたちを虫けらのように虐殺するプレイヤーが、八兵衛はちべえにやられたんだから・・・・・・」

「なんかの間違いだよ」


 おいら、そろそろ眠りたいな。さすがに今日は疲れた。


「そうだ八兵衛。どうせ俺たち、明日も戦場に出陣だろう?だったら、八兵衛にこれをやるよ」


 そう言いながら、弥吉やきちがおいらに綺麗な桐箱きりばこを手渡してきた。


 箱を開けると中から、金色にきらきらと輝く、細身の刀が出てきた。


「弥吉・・・・・・これは確か、“破邪はじゃ烈雷刀れつらいとう”だな?でもこれは、プレイヤー用の武器じゃねえのか。どうしたんだ、こんなもの」

「今日、俺の持ち場にはプレイヤーが誰も来なくてな。で、そこにあった箱からちょっとくすねてきたんだ」


 すげえな。これってかなり高い攻撃力を誇るんだよな。


「俺が持っていても、宝の持ち腐れだ。それより八兵衛が持っていた方が、きっと役に立つだろうよ」


 弥吉やきちはにっこりと、白い歯を見せて笑うのだった。



 翌日。弥吉からもらった破邪はじゃ烈雷刀れつらいとうの効果は絶大だった。


 その日、戦場にプレイヤーは二人いた。が、一人目はおいらが破邪はじゃ烈雷刀れつらいとうを使った「ダンス」をして、斬撃を繰り出すと、あえなく虚空に散っていった。


 だけれど、もう一人は手強かった。というか、逃げてばかりいた。


「はあぁぁぁ?あの熟練プレイヤー・虎狼丸ころうまる先輩がモブにやられるとか、何かのバグだろう?やば、あんなモブに関わってたら、俺までやられちまう。ここは時間切れまで待って、引き分けにして、スコアを下げないようにして・・・・・・あとで運営に報告しよう」


 そうひとり呟いていたところを、破邪はじゃ烈雷刀れつらいとうの遠隔攻撃でばっさり。


 派手な迅雷に散っていくプレイヤーを見ていると、ちょっと楽しかった。ああ、今までおいらたちモブ雑兵ぞうひょうを薙ぎ倒していたプレイヤーたちは、こんな気持ちだったんだな。

 


 その次の日になると、プレイヤーたちが「運営」とか「ゲームマスター」とか呼んでいる人が出てきた。灰色のシンプルな服装の彼は、おいらにてのひらをかざして「消去プログラム発動・・・・・・」とか言い始めた。


 よくわかんねーけど、おいらを消そうとする呪文だということだけは理解できた。だから、破邪はじゃ烈雷刀れつらいとうで、バッサリ斬ってやった。


「そんなバカな・・・・・・ゲームマスターの私には、いかなる攻撃も効かないはずなのに・・・・・・まさかバグがそこまで“進化”したというのか・・・・・・これはいかん、早急に手を打たなければ」


 意味不明なことを呟きながら“ゲームマスター”は消えていった。

 

 そのまた次の日の戦場は、明らかにいつもとは違っていた。


 なんと、総勢百人ものプレイヤーが、おいらたちの敵軍に参戦したのだ。


「いやいや、いくらなんでも無理だ!あんな恐ろしいプレイヤーを、百人も相手できないだよ!」


 泣き言をいうおいらに、春介はるすけげきを飛ばしてくる。


「なにをいいますか、八兵衛はちべえ殿!あなたこそが、あの不愉快なプレイヤーたちから我らを解放する、一縷いちるの望みなのです!そのためには、我らいくら犠牲になっても構いませぬ!」


 いつの間にかできた「八」の字が書かれた旗を掲げながら、春介はるすけを始めとするモブ雑兵ぞうひょうたちは、プレイヤー軍団を目がけて突入していった。


 ああ、もう。みんな、命を大切にしなきゃだめだよ。


 破邪はじゃ烈雷刀れつらいとうを背にしながら、おいらもまた、戦場に繰り出す。


 その日、百人ものプレイヤーが、おいらの破邪はじゃ烈雷刀れつらいとうつゆとなり、消えた。

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 無双ゲーのモブ雑兵、天下統一を目指します。 いおにあ @hantarei

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