天下無双の「布団の上ダンス流剣術」
ナナシリア
第1話
布団の上でダンス。
誰もが一度はやったことがあるのではないだろうか。
例えば、あこがれのアイドルグループへの推し活として、だったり。中二病の行きつく先、だったり。
それは、天下無双の剣士と名高い雛も例外ではなかった。
しかし、彼女の場合はありえない理由だった。
それがなんと、訓練のためだと言うのだ。剣術の。
剣術の訓練をするうえで、ダンスの優位性はいったい何か。
のちに彼女はこう語った。
「ダンス独特のステップや、動きのキレ、動きの記憶など、それらが高次で組み合わさることによって、剣術の上でも新たな世界が生まれます。……布団? 部屋が狭いので。ああ、たぶんクッションにもなりますよ。ないよりはあった方がいいんじゃないですか」
天下無双の剣士だけあって、彼女が戦いに呼ばれる機会は多い。
一度、魔王城の襲撃に彼女も呼ばれたことがある。
その時、最高戦力だった彼女は、魔王の寝室の襲撃を担当。
魔王は威厳のあるベッドで寝ているかと思われていたが、意外と庶民的なタイプだったらしく、魔王の寝床は敷布団であった。
「くっはっは、勇者よ、よくぞ現れたな!」
「いや、布団の上で言われても威厳無いよ」
魔王の名乗りを威厳無いよの一言で無効化、そこから剣戟が始まった。
一緒に連れてきた勇者が部屋の入り口を守る中、雛は瞬時に魔王を壁際に追い詰める。
不安定な足場の上で戦うのは不利だと察したのか、魔王は持ち前の身体能力で反転し、今度は雛を壁際、布団の上に追い詰めた。
そこで、布団の上でダンスする習慣の出番。
天下無双の剣士だけあって、布団の上でダンスのような剣戟などお手の物。
かと思われたが、さすがに魔王は魔王。有利な足場の上で剣戟を仕掛ければ相手を押し込むことは必然。
二人はそのまま空中戦に移行。
しかし、空を飛ぶ魔法を操る魔王に対して、ジャンプ力だけで滞空する雛は、はっきり言って異常。
ただ、いくら天下無双の剣士だと言えども、その状況下で魔王を仕留めきることは――。
落下。
なんとか受け身を取ったはいいものの、普通に落ちたら、たとえ雛でも死ぬ高さ。
――ああ、たぶんクッションにもなりますよ。
命がけの戦いのさなか、思わず笑みがこぼれる。
あの時の発言が、こんな風に立証されるとは。
しかし、低い体勢で魔王と対面。いくらなんでも不利だ。
一撃を防いだはいいものの、依然上を取られている。
だから――。
「魔王覚悟!!」
魔王の背後から、勇者が剣を突きさす。
どうやら入口付近の敵は全滅させたようだ。
「天下無双の剣士……。ありがとうございます、あなたがいなければ魔王討伐は不可能だった」
「いや、ここからいい話風に持っていくのは無理でしょ」
布団に横になったまま、顔面に魔王の血液を噴射された雛が、そこにはいた。
天下無双の「布団の上ダンス流剣術」 ナナシリア @nanasi20090127
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