あの日、キミは約束の時間を過ぎてもなかなかアパートに帰ってこなかった


何かあったのかな

まさか帰ってくる途中にまた事故に?


ろくに家具もない小さなこの部屋で、キミは独りきり暮らしはじめた

まだ、こんなに寒いんだ

眠れずに部屋の隅で布団にくるまってキミの帰りを待っていた


~~~~~~


振り返ってみれば、ただの失恋だった

初恋だったけど、この先キミよりもっと好きになれるひとが現れるなんて思えなかったし、キミにはわたしが必要なんだと、離れることなんか出来ないと本気で思っていた

だから生理が遅れていることを告げた時、キミは最初に「産もう」と言ってくれた、それで十分だった。仕方がなかった、中絶薬のシートを机の引き出しに仕舞っておいたからママに知られてしまったというわけじゃなく、ママに知られてしまったからパパがキミのアパートを訪ねたわけじゃなく、キミとさよならしなければならなかったのは、キミのことが大好きだったから



振り返ってみても、あのときが「さよなら」だなんて思っていなかった

仕方がなかった、別れるしかなかった

ハルの両親が訪ねてきたとき、ぼくは父親にも母親にもハルの両親にもどんな言い訳も説得も出来なかった、どんなに自分にはハルの存在が必要でほかの誰かが代わりになんかなれないって、証明する術がなかった、だからさよならと言っていつの日か必ず迎えにいくと心に誓った














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