第2話 バイト探し

 いつものように昼過ぎに起きた真隆は、まだ『ぼぉー』とした頭でゲームの続きをしていた。『天下無双のペンギン』という、ハマる奴にはハマるゲームを。


(腹、減ったな)あれから何時間、経っただろう?階段を降りて、いつものように母さんが作り置きしてくれたご飯は‥冷蔵庫になかった。

(なんだよ。昨日の今日で、もう切り捨てかよ。しゃーない。カップラーメンが入れてある棚を開き、お湯を沸かして食う)


(ハアー)昨日母さんに言われたことを、思い返す。

 予備校ねえ‥もう、行かなくなって2年は経つ。その金を、小遣いにまわすことにも罪悪感がなくなっていた。


 1週間ぶりに風呂に入り、浮浪者のように伸びた髭をそり同じく伸びた髪を束ねた。そしてとりあえずこざっぱりした服に着替え、庭に放置してある自転車に乗り家から30分圏内で、バイト探しをはじめた。

 知り合いに極力会いたくないので、コンビニやスーパーなどは避けたかった。しかし、今の俺には、職種を選ぶほどの余裕もない。コンビニの張り紙に誘われるようにして入りかけた時に、近くの雑居ビルの張り紙に気が付き、面接に至る。

 2階に上がると、うらびれた喫茶店があった。

ドアの前で迷っていると「あんた、面接の人?」後ろからふいに声をかけられ振り向くと、水商売風のいかつい風体のオカマがたっていた。

そのオカマ『オーナーの水野武ことミッキー』さんが、面接をしてくれた。

「あんたいくつ⁈」


「23歳です」答えながらも、ジロジロとそのオカマに目がいってしまう。

「名前は?」 


「桐谷 真隆です」


「桐谷って!」思わず、甲高い声が上がっている。


「学生さん⁈」


「いいえ」


「今まで、何やっていたの」


「浪人です」


「浪人って、何年ぐらい?」


「19歳からだから、4年目じゃないか?」いつのまにか、オーナーの近くにきていたシニア男性は興味深々である。


「君には、妹‥いや、兄弟姉妹はいるのか?」


「はい、妹が一人。あの、履歴書は今度もっていきます」なんだか、妹がいることを知っているみたいだったな。


「うちは、17時まではここで、18時からは3階でお酒を出してショーを見せるショーパブをやってるわ。両方で、人手が足りないのよ。常時いるのは3人で、あとバイトが1人ね。よかったら、両方やってみる⁈」


「えっ、あの僕バイトは、ほとんどやったことがなくて‥」


「うふふ。すぐ慣れるわよ。それに、ショーパブは時給がプラス300円高いわよ」


「お、お願いします」俺は、即答していた。


きっと自分の中でもこのままでいいはずないと、思っていたのだろうか。


「スタッフの人数が、少なくて助かるわ。早速、明日からでもこれる?」


「あ、明日?は、はい」もう、どうにでもなれだよな。


「1週間は朝からでも夕方からでも好きな時に来ていいわよ。2週間後にシフトを入れるから。それとこれ名刺‥これで、うちの動画見てね。パブの様子がわかるから。やって見たいことがあったら、教えてね」せっかく来たバイトを逃がすものか、というような勢いでまくしたてられた。





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