第3話
わたしが布団を敷いている間、お母さんが予備のパジャマをすみれさんに着替えさせてた。
チラッと見えたけど、ちょっと痩せすぎじゃないかなあ?
そう思いながら敷き終わり、台所に薬を取りに行った。
「すみません。休ませてもらって」
すみれさんは薬を飲んだ後、頭を下げた。
「いいんですよ。しかし芸能界の人ってそこまで無理してでもなんですか?」
お母さんがすみれさんを支えながら聞くと、
「……今日はドラマの撮影だったんです」
「え、ドラマに出るんですか?」
わたしが思わず言うと、
「うん。社長が方々に頭を下げてくださって、やっと端役を貰えたのに」
「さっき電話されてたのは社長さん?」
いつの間にか電話してたみたいで、お母さんが聞いた。
「はい。自分が処理しておくから休んでなさいって。けど最初からこれじゃ、もう」
すみれさんは俯いて顔を覆った。
「今はとにかく寝てなさい。みどり、ちょっとの間見ててね」
お母さんは私にそう言って居間を出て行った。
「みどりさんって言うのね」
すみれさんが手を下げてわたしの方を見た。
「あ、はい。
うわあ、名前呼んでもらえたの二度目だ。
あ、一度目は。
「年末のライブの後でサインしたら泣いて喜んでくれた、あのみどりさんよね?」
「え、覚えててくれたのですか?」
「ええ。知っての通りお客さん少ないから、何度も来てくれてる人は皆覚えてるわ。さっきはぼうっとしてたから気づかなかったけど」
……そう、すみれさんのライブはいつも満員になる事はない。
年末の時は百人くらいいたけど、最初に行った時は十人くらいしかいなかった。
なんで人気出ないんだろって思ってると、
「一生懸命やってたんだけど、やっぱ私はここまでね」
すみれさんがそんな事を言った。
「え、やめちゃうんですか?」
「うん。最後の道も無くなったしね」
「そんな。歌だってダンスだってすっごく素敵で大好きです。わたしだけじゃなくて他の何人かの人もそうだと思います。だからやめてほしくないです」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね、お客さん来なかったら利益出ないし事務所の負担になる。社長は気にするな、いつか陽の目を見る時が来るからって言ってくれるけどね」
すみれさんはそう言ってまた俯いた。
「……あの、やめた後はどうするんですか?」
「そうね。とりあえず実家へ帰って、それから考えようと思うの」
「実家って大宮ですよね」
「そこまで知っていてくれたのね」
「両親もそこの生まれなんで、それもあったかも」
「そうなのね。実はうちの社長もで、同じ中学の大先輩でもあったの」
「うわ、そうだったんですね。あ、思い出しましたけど社長さんってあの俳優、
あのパッと見だと女の人にしか見えない男性。
噂じゃ社長の恋人だって友達が言ってたなあ、涎垂らしながら。
「ええ。社長曰く『こいつは俺が見てないと何するか分からんから』だそうよ。しかし桜井さん、もう四十過ぎのはずなのに私より若く見えるって何?」
うん、お母さんもテレビで見た時に「この人実は妖精なんじゃ?」なんてぼやいてたなあ。
「けど、オーディション受けに行った時に私を推してくれたのは桜井さんなのよね。ほんと……何も恩返しできなかった」
すみれさんがまた俯いた。
「あの、なぜアイドルになろうと思ったのですか?」
思わずそんな事を聞いた。
「そういえば誰にも言ってなかったわ。あのね……」
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