第2話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 夢の中でわたしは布団になっていた。

 そして布団の持ち主はあのアイドル、増山ますやますみれさんだった。


 最初にすみれさんを見たのは、地元のショッピングモールのイベントでだった。

 あんまり有名じゃない人だから来てくれたのかな?


 けどなんて言えばいいんだろう。

 引き込まれたと言えばいいのかなあ。

 可愛らしいなって雰囲気の人で、透き通るような綺麗な声で歌っていて、ダンスも上手だった。

 その時からもう大ファンになった。

 いつかあの人が超人気アイドルになっても、ならなくても応援し続けたいって。


 けど布団になって覆い被さりたいなんて……心のどこかで思ってるのかなあ?

 ううん、わたしはそんな変態じゃないもん。


 って、いけない。

 支度しなきゃ。

 学校に遅れちゃう。

 

――――――


 授業が終わって帰り道。

 今日はひな祭りで、お父さんとお母さんの結婚記念日でもあるから早く帰ろ。

 二人はうちにあるひな人形のおかげで出会ったって言ってるけど、詳しい事はよく知らない。

 今度ちゃんと聞いてみよ。


 ん、あれ?

 なんだろ、家の前になんか置かれてる?

 

 近づいてみると、それはうつ伏せに倒れている人だった。

 ……って行き倒れ!?


「う、う~ん」

 あ、意識あるみたい。

「あ、あの、大丈夫ですか!? 救急車呼びます!?」

 肩に手をやって話しかけると、


「い、いいわよ。ちょっと転んだだけだから」

 そう言ってその人は顔を上げた。

 って、え?

「……増山すみれさん?」

 だよね? 違う人?


「え? そうだけど私の事知ってるの?」

 ご本人だった。

「あ、はい。わたしファンなんです」

「そうなの、ありがとね。あ、大丈夫だから」

 すみれさんは立ち上がろうとしたが、よろけてわたしの方に倒れてきた、って。

「危ない!」

 なんとか支えられた。

 暖かいな、それに顔が赤い……え? 


「ご、ごめんね。大丈夫だから」

 すみれさんはそう言って歩いて行こうとするが、

「あ、あの、少し休んでってください。ここわたしの家だから」

「大丈夫だから」

「すみれさん、体調悪いんでしょ!?」

 熱あるし風邪っぽいもん。

「う、だから大丈夫」

「無理しちゃダメ! さあ」

「大丈夫だって言ってるでしょ!」

 すみれさんが怒鳴ってきたので思わず離れてしまった。


「……あ、ごめんね。心配してくれてありがと。それじゃ」

 

「どうしたの!?」

 家からお母さんが血相変えて出てきた。

「この人、熱あるみたい」

 わたしがすみれさんを指して言うと、

「そうなの? あの、病院に行かれた方が」

 お母さんもすみれさんに言ってくれた。

「大丈夫、です……」

 そう言いながらまた倒れかけたけど、

「よっと!」

 お母さんはすみれさんを抱き留め、

「もう、病院が嫌ならせめて寝てなさい!」

 軽々と担ぎ上げて家の中に入っていった。


 ……お母さん、今のわたしと一歳下の弟・利行としゆきを同時に担げるくらいだもんね。

 って、それより大丈夫かな?


 わたしも家に入った。

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