第20話 過激すぎるゲーム

※またまた朱音視点です※


「彩音、そんなに卒業旅行嬉しいん?」


「え、そんなことないよ」


 男子2人と分かれた後も、彩音はどこか浮かれている。


 中学生の頃から憧れを抱いていたので、致し方ない部分もあるが、この笑顔を作ったのがあの2人だと思うと、何だかやるせない気持ちになる。


 やや俯き加減で歩いていると、彩音に心配された。


「お姉ちゃん、ごめん。わたし、お姉ちゃんの気も知らんと勝手に卒業旅行やなんて……」


「あたしの気持ち?」


 そうか、彩音はあたしが失恋……といって良いのか分からないが、とにかく彩音同様に男子2人に不信感を抱いていると思っているんだった。


 一瞬、卒業してまで彩音との間に割って入ろうとするあの2人に嫉妬しているのがバレたのかと思ってしまった。


「まぁ、卒業旅行終わったら関わることのない奴らや。もうええよ」


「確かにな。藤井君に、友達としてって言われたんやけど、結局卒業するまでなんよな。その先はそれぞれ別の道を歩むんやな」


 物思いにふける彩音。こういう時こそチャンス。


「はは、彩音。センチになってんで?」


「お姉ちゃんもなってるやん」


「はは……せやね。こういう時って、2人で遠くに行きたくなるよな。誰にも邪魔されん2人だけの世界」


「うん」


 あたしは歩いている足を止め、立ち止まった。彩音も振り返ってあたしを見る。


 月明かりに照らされた2人。やや離れた場所で踏切の音が鳴れば、金網を挟んだ向こう側の線路の上を電車が通過した。


 そんな何とも言えないムードで感傷に浸っている2人が見つめ合えば——。


「彩音、あたしは彩音しか信じへんから」


「お姉ちゃん……」


「誰に何と言われようが、もう騙されへんから」


 ここで涙なんて流してみる。


 すると、どうでしょう。彩音が飛び付いてきたではありませんか。


「お姉ちゃん、ごめんな。わたし、騙されそうになってた。わたしもお姉ちゃんしか信じへん」


 彩音をしっかり包み込み、頭を撫でる。


「一生2人で生きていこうな」


「うん」


 よし、言質はとった。今の時代、あまり意味はないだろうが。


 彩音が顔を離し、申し訳なさそうに言った。


「卒業旅行どうしよ……やっぱやめた方がええかな?」


「卒業旅行は行こう。彩音ずっと行きたがってたやろ。次言うたら4年後やし」


「ええの? 藤井君はともかく、吉田君もおるよ? 好きやったんやろ?」


「うーん……彩音があたしを裏切らへんって約束出来るなら、安心は出来るかな」


「裏切るわけないやろ。アホやな」


 これで、吉田君が何か言って、本当は両想いだったこと、全てが彩音の勘違いだったと知ってしまっても大丈夫。


 彩音はあたししか信じない。全ては吉田君が仕組んだものだと勘違いしてくれる。

 

「てかさ、彩音」


「ん?」


「卒業旅行っていったら親おらんやん?」


「そりゃ、そうやろ。おったら嫌や」


「一緒に寝るだけもつまらへんから、こんなことやってみーへん?」


 あたしは、スマホを取り出して、ある画面を彩音に見せた。


「なッ」


 彩音は口をぱくぱくさせながら赤面している。可愛すぎる。


「これ描いた人の名前見てみてよ。って、そんな余裕ないか」


 これは、最近ダウンロードした百合のイラスト。過激なエロいシーンを繊細なタッチで描いているのだ。


 そのイラストレーターの名前が、まさかの“吉田”。


 このイラストを見つけた時、吉田君を想像して笑ってしまった。


 これを共感したいのもあったが、卒業旅行では、彩音があたしに過剰に意識すること間違いなしだ。なんなら、本当にヤッてしまっても良いかもしれない。


「隣の部屋で、吉田君と藤井君に声がバレへんようにするのとか、ゲームみたいで楽しそうやない?」


「はは……過激なゲームやな」


「勝ったら相手の言うこと何でも聞くとか、賭けしてもおもろそうや」


「か、考えとくわ」


 考えなくとも、彩音はそのことで頭がいっぱいになることだろう。


 当日、何もなかったら何もないで物足りない気持ちになり、あったらあったでその先は——。


「ふふ、卒業旅行が楽しみや」

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