第15話 百合漫画
※彩音視点に戻ります※
わたしの受験はひとまず終わり。
「結果が出るまでソワソワするね」
「大丈夫よ」
朱音は余裕そうだ。
「お姉ちゃんは良いよ。わたしなんて自己採点したら、合格圏内ギリって感じだったし」
「この間受けた滑り止めの方は大丈夫だったんでしょ?」
「まぁ、あれはあくまでも滑り止めだから」
出来ることなら第一志望の大学に通いたい。
校門の前に立てば、何がある訳でもないが、1週間ぶりの学校に緊張してしまう。それが伝わったのか、朱音が手を握ってきた。
「ま、なるようになるわよ」
「だね」
2人だと安心する。ずっと2人で生きていけたらどんなに楽か。
校門を朱音と2人でくぐれば——。
「そこは異世界だった……なんてね」
「彩音、ラノベの読みすぎやで」
「はは……けど、魔法とか使ってみたいよな」
「あたしは冒険より惚れ薬作りたいわ。んで、一生一緒に幸せに暮らしましたとさ」
「お姉ちゃん、薬に頼ったらアカンよ」
「せやな」
2人で他愛無い話をしながら歩いていると、横からぎこちなく挨拶された。
「お、おはよう」
「藤井君……」
今1番会いたくない人に出会ってしまった。
「お姉ちゃん、行こう」
わたしは、朱音の手を引っ張った。
「彩音ちゃん、待ッ」
藤井君の呼び止める声を無視しながら、わたしは足早に教室を目指した——。
◇◇◇◇
藤井君を避けて来たのは良いが、結局同じクラス。教室の後ろの席で、ずっと見られている……ような気がする。自意識過剰かもしれないが。
(大学、お姉ちゃんに勧められて女子大にして正解やったわ)
藤井君だけでなく、周りの男子にも嫌悪感しか抱かない。
「——というわけで、卒業式の段取りはそんな感じ。明後日から練習開始な」
担任の先生の言葉で、いよいよ卒業なんだなと改めて実感させられる。
名残惜しい気持ちもあるが、この数週間良い思い出がないので、残り数週間の高校生活は、ただただ卒業までカウントダウンする日々を暮らすことになりそうだ。
「それじゃ、各自自習」
そして、受験を終えた私は、そっちのグループの仲間入り。自習時間は何をして過ごそうか……。
ちらりと横の席を見ると、いつもいるはずの吉田君はいない。
(確か、受験今日やったよな……って、あかんな。あんなクズ男、応援する価値もないわ)
一人でいても余計なことを考えてしまうので、朱音と一緒にいよう。そう思って席を立つ。
「お姉ちゃん、何読んでんの?」
朱音は早速漫画を開いて読んでいた。しかも、いつもはスマホで読むのに、今日は紙媒体。珍しい。
「さっき借りたんだ。卒業したら会えなくなるから、みんな漫画やらCDやら、貸し借りしあいこしてるらしいよ」
「へぇ、知らなかった」
「彩音も読む?」
「うん。暇だし、読もっかな」
「じゃ、部屋移動して一緒に読も」
朱音が席を立つと、朱音のスマホのバイブがなった。
朱音はスマホを確認すると、藤井君の席を一瞥した。そして、漫画が数冊入った紙袋を渡された。
「彩音、先に視聴覚室行ってて」
「お姉ちゃんは?」
「ちょっと先生のところ行ってくる」
「……? うん、分かった」
◇◇◇◇
わたしは視聴覚室の隅で、顔を赤らめながら漫画を読んでいる。
「みんな、こんなん読んでんねや……」
青春モノ。恋愛モノ。それなら、わたしも普段から読んでいる。
しかし、これはエロが多め。しかも女の子同士!
百合は初めて読んだが、女の子同士なら分かり合えることの方が多そうだ。案外悪くないかもしれない。
男女で恋愛をするから拗れるのだ。うん、きっとそうだ。
そんな風に思っていると、朱音がやって来た。
「彩音、それどうだった?」
「う、うん。面白いよ。もうすぐ最終巻」
「だと思って、こっちも借りたから」
朱音は更に5冊、別の漫画を机の上に置いた。
「あ、ありがとう。そういえば、先生に何話に言ってたの?」
「あー、大したことないよ」
「……?」
「受験がどうだったとか。そんな感じ……かな」
どこか誤魔化された気がするが、漫画の続きも気になる。
「へぇ」
わたしは、漫画の続きを読み進めた。
——ちなみに、さっき朱音が持って来たのは、双子姉妹の百合モノだった。
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