茉莉、妖精になって会いに行く

この美のこ

🧚

あの夢を見たのは、これで9回目だった。


満月が柔らかな光を放つ春の夜、私は再び同じ夢の中にいた。

私はいつの間にか妖精に変わり背中には透き通る羽がある。

妖精になった私は軽やかに翼を羽ばたかせ、樹々の間をすり抜けていく。

夜だというのに昼間のような明るさの中、どこからか、赤い木の実をついばんでいる。花々が歌うように咲き、美しい蝶たちが私を導く。


森の奥深くに小さな湖が輝いていた。

その湖畔に、颯が座っていた。

妖精になった私を見つけた颯は優しく微笑んでいる。

二人は湖のほとりで夜が明けるまで語り続けた。


朝焼けが森を染めると、私は徐々に夢から覚めていく。

目が覚めるといつも涙で枕が濡れていた。


颯に会いたい気持ちと妖精になりたかった気持ちが私にこんな夢を見させたのだろうか?

この夢を見る度に、颯に会いたい気持ちが募ってくる。




   * * *



颯くん。

私、おばあちゃんと暮らした一年間、そして颯くんと過ごせた一年間が一番楽しかったよ。

ママが死んじゃってすっごく悲しくって寂しくって辛かったよ。

パパはすぐに再婚しちゃったし……。

本当はおばあちゃんとずっと暮らしたかったけど、颯くんと同じ中学校に行きたかったけど、パパについていくことになっちゃった。

最初はとっても嫌だった。

パパが

「今日からこの人が茉莉のママだよ」

なんて言ったけど、ママの代わりなんて他にはいないよ。

だけど、颯くん、パパが結婚した女の人は、とっても優しい人だったんだ。

「茉莉ちゃんのママにはなれないけどお姉さんになれないかな」って。

私に話しかける時もいっつもニコニコしてた。

もちろん、ママには敵わないけど、お姉さんならいいかなって。

一人っ子だったから、ちょっと嬉しいかな。


颯くんにいつか会いに行きたい。

その為に、私、頑張ったよ。

颯くんにいい女になったなって言われたいもん。

ううん、言わしちゃうよ。



 * * *



今私は、家を出て一人暮らしをしている。

臨床心理士の資格を取って学校現場で子供達の相談に乗る「スクールカウンセラー」として働いているの。

私は絵本や颯くんに救われたけど、誰かの心を救うお手伝いができたらって思ってる。

私の経験も無駄じゃないって今は思えるから。


  


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