炎舞と初春の風舞
藤泉都理
炎舞と初春の風舞
天下無双という存在も時には考え物であるな。
知においても、血においても、地においても、力においても、俺様以外に敵う生物が居ないのである。
それはそれは恐縮せざるを得ないのではないか。
それが武術学園を卒業する新米武人ならば尚更の事である。
「さてもさても。今年はどうだ!?」
卒業式で行われる恒例のダンスパーティーにおいて、本日武術学園を卒業しては明日から新米武人として働く事になる生徒たちは卒業生とダンスをしなければいけないという伝統があり、そのパートナーは各々探して了承を得なければならないだ。
武術学園の卒業式当日。
桜の花が綻び始めた頃。
寒気が襲いかかる中。
「っふ。まったく。今年も俺様に願い出る強者は現れなんだか」
天下無双を轟かせる武人、
鯨波にダンスのパートナーを願い出る強者が現れたのである。
布団である。
正確には布団で身を隠す人語を話せる生物である。
素顔と肉体を隠すとは笑止千万。
思わず眉根を顰めた鯨波であったが、己に話しかけて来た勇気を讃えて叱咤は我慢して、さあ行くぞとダンスパーティーが行われる武術学園内のダンスホールへと向かったのであった。
ダンスホール内にて、どよめきがいついつまでも収まらない中、音楽が奏でられると同時に布団と鯨波は互いに礼を捧げてダンスを始めた。
太鼓を主軸に奏でられる音楽の題目は、武術学園伝統の雄々しい炎舞である。
というのに。
(こやつは、)
布団が時に炎の威力を増大させては、時に炎の威力を軽減させる、力強さと軽やかさとやわらかさを含んだ風舞であった。
しかも、初春の風舞である。
暖かく優しくやわらかい風が心地よい微睡みを運んで来る。
(度胸があるのかないのか)
鯨波は吠えたのち、炎舞を荒々しく踊り続けたのであった。
息が合っているようで合っていないような、混乱してしまうので目を離したいような魅入ってしまうような、剛と柔が見事に混合しているようなしていないようなダンスであったと、のちに語られるようになったという。
「あれは演出です布団で私を隠していた訳ではありません!!!」
「ガッハッハ!!! その心意気やよし!!! だがやはり演出とはいえ初対面の時にそう説明するべきであった!!! 森林を百周してこい!!!」
「っは!!!」
のちに鯨波の部隊に所属された新米武人である
(やはり、見透かされているのだろうな。演出も真実であるが、あまりに怖くて布団で全身を隠していたという事も。は。はは。共に踊っても尚、怯えと恐れで全身が震える。だがもう、布団で隠す事はしない)
長庚は武者震いだと念じながら、森林を駆け走るのであった。
(2025.3.17)
炎舞と初春の風舞 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます