第一話 蓮元探偵事務所
目を覚ますとそこは見慣れた事務所だった。
ここは蓮元探偵事務所。部屋は薄暗く、お昼のワイドショーの司会の声が控えめに響いている。
寝ぼけ眼をこすりながら、お湯を沸かしカフェオレを淹れる。そして我が事務所で唯一陽当たりのいいマイデスクへ腰を下ろし外をぼんやりと眺めた。
ポカポカ太陽が顔を照らす。俺をお昼寝へと誘った元凶である。
温かいカフェオレをひとすすり。
口の熱と共に長いため息をこぼす。至福の時。この穏やかな時間が永遠に続けば良いのに...
その瞬間事務所の扉が元気よく開いた。
「はすっち!こんちわーーーーー!!」
穏やかな時間が終わった。現実は無常である
彼女は新井友子 (あらいともこ) 。蓮元探偵事務所のアルバイトであり、俺の至福の時を邪魔してくるアホンダラだ。
アホンダラがこちらに近づいてくる。
「はすっち!私、仕事とってきましたよ!!」
はすっち。この俺、蓮元要 (はすもとかなめ) のことである。友子はまん丸の目をキラキラさせて賛辞の言葉を期待している。
俺はカフェオレで口を湿らすと、仕事をとってきたアルバイトに賛辞の言葉を
「言うかー!アホンダラ!!毎日毎日至福の時間を邪魔しやがって!あと、はすっちって何だ!アイム雇用主!アイム29歳!君より8つも歳上なんだぞ!!」
どうだ、一息で言ってやったぞ...!
息を整えながら友子の目を覗くと、まん丸な目からキラキラが消え、代わりにメラメラが宿っていた。どうやら火をつけてしまったらしい。
「うるさい!貧乏探偵!毎日毎日ダラダラと!私が仕事とって来ないと、客なんてこないでしょーが!!閑古鳥も喉痛めますよ!!」
ぐぅ!痛い所をつてきやがる!
俺が言い返せないのを見て、友子はフフンと鼻をならした。くそっ、いつか絶対泣かす。
「んで?一体どんな仕事とってきたんだ?」
怒りを一旦飲み込み仕事モードに切り替える。
「あ!そうだった!何とですね...神隠しですよ!失踪事件!これは腕がなりますね!」
はぁ、またオカルトか。コイツは仕事は取ってくるが、その尽くがオカルト案件なのだ。
友子はだって好きなんだもんと舌を出している。
「大体さ。警察が見つけらんないのに俺たちが見つけるなんて無理な話なんだよ」
友子がすかさず反論する
「そんな事ないです!警察が見つけられなかったのは、神隠しだからですよ!謎を解かなければ見つからない。探偵の出番ですよ!!」
それにと友子は続ける
「陽当たり悪いのに電気すらつけない位、お金ないんですよね?依頼人は降って来ないんですよ?」
不本意だが、その通りだ。
我が事務所に依頼を選ぶ余裕は無い。
あと30分で依頼人が来ますよと友子が言う。
俺はダルダルの洋服に身を包んでいる。慌てて身支度を始め、スーツを引っ張り出す。
あれ、埃かぶってる。事務所の存続に危機感を覚えながら、俺は埃をはたきスーツを着た。
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