第29話 モデル

side:平倉

夏休みがもう終わる。

課題はほとんど終わった。

日記は祭りのあの日以外は全部嘘で完成。天気だけはいちおうちゃんとメモっといた。

残るは…


「美術部の課題か…」


文化祭で飾るので、幽霊部員すら提出は絶対。

テーマはなく、好きなものを描いてこいと言われた。なんでも良いがいちばん困る。アニメキャラとかはダメらしいし。風景画なんて描けない。描くならオリジナルのアニメ風人物。


たくさんの種類のパーツを用意して組み合わせて描くのも面白いかもしれない。表をつくって描きこむ。サイコロはもってないのでスマホの機能を使う。


…あんまり面白くない。

組み合わせて描くのが面白いのは、おおはずれが存在するからなんだな。


私にはおおはずれが含まれたやつを提出する度胸はない。 変に目立たず、まともっぽいのが描ければ良い。



なんとなく、描けるかなって、あいた紙に勝村を描いてみる。

顔特徴的だし。描きやすい。

大きくて長いまつげがはえた二重の目。高い鼻。口角下がり気味の分厚めのくちびる。丸に近い輪郭。


うまく描けすぎて、絶対にばれる。

もう少しデフォルメするか。


いや、もう、許可取ろう。ついでにからだのモデルもやってもらおう。顔正面の画は、悪目立ちする。


勝村の連絡先は、グループレインから取ってきた。


要求を伝えると、さらっと当然のようにOKがもらえた。

さすがにこちらのお願いだけを聞いてもらうわけにはいかないので、なにしてほしいか聞いたら、日記にかく天気を教えてほしいそうだ。

メモっといてよかった。


数日後


勝村がうちに来た。

わざと遅れてきて、手土産をもって、お母さんに挨拶をして、マナー完璧なんじゃないかと思う。


勝村を2階の自分の部屋にあげ、飲み物と茶菓子を準備していた母から、それらを自分で運ぶと言って受けとり、2階に戻る。


「お茶とお菓子もってきたよー」


正座してる。もっとくつろいでもらって良いのに。でもまあ、イメージ通りだなと思う。


私は勝村の横に、足をくずして座る。座布団なんかないのでどこに座っても違和感はないはず。

勝村は拳をついて、ずらすようにこちら向きに座り直す。


「モデルってなにをすれば?」


今聞くんかい。


「ポーズとか手の形とか、とにかくいろんな写真撮らせてもらいたいな。ついでに顔も参考にさせてもらっても良い?」


(本当はもう、顔の絵は完成している。筆が乗ってハンサムが爆誕した。さらさらっとかけるくらい何回も描いた。)


「うん。」


完成したら見せてねとか、使い終わったら写真消せとか言わない。大丈夫かこの子。盛大に悪用させてもらうぞ? 嫌われないくらいには。


「いちおう、書き終わったら見せるね。」


「文化祭で見るから良いよ。」


「いちおう、いちおうね。確認というものがいるから。」


「…なるほど。」


他にやることもないので、早速撮ることにする。


「はい、笑顔~  いや、待って、作り笑顔怖いよ? 悪役の企む顔じゃん。」


といいつつ撮る。

しぶしぶ直した顔は口角だけを上げた、不器用な笑顔。それも撮る。


「なんかさ、目元がいつもちゃんと笑ってないのよ。」


近づいて、無理やり笑わせようとした。


「ははっ、さすがに冗談だよ。ほらっ、ちゃんと撮りな。」


と言ってクシャっと笑った。

それを私はパシャっと撮った。

すごいしぜんだ。


「もう、やれるならはじめから真面目にやれよ。」


「…どんな笑顔か指定しなかったじゃん。」


「まぁ、確かに‥? じゃあ、次は、なんかポーズとって。」


両腕と片足を上げたポーズをとる。

やると思ったよ。写真はとらない。


「…ポーズの指定もしなかった。」


「…じゃあ、指定してあげるよ。体貸せよ。」


机の上に準備しておいた緑の幅広めのリボン。こういうチャンスを期待しなかったわけがない。

勝村の腕を江戸の罪人のように縛る。本当にこう縛るのかは知らないけど。


「…緑好きになったの? あともうちょっときつく縛って良いよ。」


縛り加減遠慮していたけど、確かにもっと縛った方が良さそうだ。腕は太さが変わるので、円柱の棒を縛るより難しい。血を止めない程度にきつく‥  難しい。


「わかった。どうして緑が好きだと?」


「今までだいたいのものモノクロのイメージあって…」


部屋にある緑色は勝村の影響だ。


「‥.最近差し色ってものを知ってさ。以前は白黒が完璧で美しいと思ってたんだけど。」


「そうなんだ。私も緑好き。」


「言わなくても分かるよ。そんなに緑のもの着けてたら。」


「今日緑じゃないよ。」


黒シャツにデニムズボン。珍しく緑じゃない。


「いつもはそうじゃん。」


「良くみてるね。」


「良く見なくてもわかる。」


「そっか。」


ようやく腕を縛り終えた。その間文句のひとつも言わないなんて、どうかしてる。


…腕だけでは色が足りないような気がして、シャツの襟辺りに、ネクタイのように、リボンを巻く。少し形が崩れてしまった。


あと、顔に一ヶ所巻きたい。おでこは急激な桃太郎感が出るし、目元は隠すのもったいない気がするし、口はなんとなく嫌だ。

目元→口の順番でやるか。


「目、縛るよ。」


「うん。」


血が止まるなどの心配はないので、少しきゅっと縛る。


離れて全身を見ると、いけないこと感が強い。興奮する。最近見た推しの二次創作の構図だ。いつも飄々としてる彼がぼろぼろな姿で縛られているのを見て、新たな扉が開いてしまった。その時と同じ気持ちだ。

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