第13話 風呂上がり
side:勝村
シャワーを浴びる。
じんじんする熱さが心地良い。
冷えきった指先が、しもやけになる。
何かが肩にぶつかって落ちる。
落ちたのは、磁石で壁にくっ付けられる、T字のワイパーだ。
風呂上がりに鏡の水滴を拭き取ってあがる習慣があるようで、鏡には水垢ひとつない。シャンプーは市販ではなく、美容室のもの。
生活水準の高さが分かる。
もっと自堕落な生活してから自分を卑下してもらわないと、私のような人間が、人間じゃない何かになる。
…なるなら昆布になりたいな。
海のなかで揺れながら、出汁を出すチャレンジがしたい。
お風呂を出ると、服が下着まで一式揃っている。
さすがに下着は借りない。濡れた自分の物を着る。
ふと、鏡の自分が目にはいる。
筋肉がうっすら見えるくらいにはキープしている。…抱き心地は悪かっただろうな。
髪がオールバック気味になっている。いつも長めの前髪で隠している目元がよくみえる。
我ながら目付きが悪い。良く言うならば、勇ましい。
私は、柔和な雰囲気をまとう術を知らない。知っていたとして、たぶんめんどくささが勝つ。
乾いてる時は、ワックスをつけようが、何をしようが、重力に負けて、真っ直ぐ目元に降りてくる。だからセット要らずで目隠れストレート。オールバック気味の状態で乾かすので一応、すこしふんわりはしている。
用意されたものを着終わったので、二階へあがる。
平倉さんが私をみた瞬間
「ちょっとまって、なんで半袖なの?」
「しょうがないでしょう、冬服はタンスだもん。」
お借りしたのは大手アパレルチェーンコニタロの、「地位が低くてかわいそうなやつ」
通称、ちひかわとのコラボコニT(ミントグリーン)だった。
かわいいキャラなのに話がブラックな回があることで有名になったキャラだ。
山下さんが着ると当然の如く、似合うだろう。
「オールバック、目付きの悪さ‥ 葉っぱ柄のズボン‥ 」
「前腕が筋肉でひし形‥ 足の筋肉もふくらはぎに箱がついてるみたいな形‥」
続く言葉はきっと、やくざか、いかついか、なんかそっち系だろうな…と思ったが、続く言葉は出ず、ふたりは、ボフッっと布団で私をくるむ。
…苦しい。
平倉さんが、刑事ドラマっぽく叫ぶ。
「勝村動くな! おとなしくしろ!」
そういわれましても息ができないことには抗わなければ。
身をよじって顔を出す。戻そうとしてくるふたり。殺す気か…? 殺す気なのか?
「…息が‥ 」
「あぁ~なるほどぉ~。」
ふたり声をあわせて言う。
「勝村の制服、洗って浴室乾燥させるね。まぁ、一時間くらいかかるからぁ 飲み物と茶菓子持ってくる~。 何が良い?」
選択肢を出してもらわないと、頼みづらい。
平倉さんは、
「私、いつもの真っ白スペシャル。」
「ん、わかったぁ。」
便乗できないじゃないか。なんだそれ。
「…お茶ください。」
「うーん、うち、コーヒーかアイスティーか、常温のミネラルウォーターしかないんだ~」
常温のミネラルウォーター‥
意識高いな、どういう生活してるんだろう。
取りあえず、コーヒーの気分なので、コーヒーを頼む。シロップもつけてくれるらしい。
いつも通りの明るさで、いつもより元気に山下さんは階段を降りていった。
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