第2話 入学式

talked by:平倉 優

勝村と最初に話したのは、中学校の入学式だった。

小学校の頃から面識はあったが、話しかけても、勝村はうなずくだけで会話をしたとは言えないものだったと思う。

ただ、きちんと考えてうなずくのが読み取れたので、話しかけて大丈夫認定はしていた。


入学式は、というか出席番号順は2列で並ぶ。

17番辺りで折り返すので、7番の勝村と24番の私は隣になる。

周りに女子が少ないので、私は、話しかけやすい位置にいる勝村に声をかける。


「入学式緊張する?」


「・・・しない。」


初めて勝村の声を聞いた。女子とは思えぬ、低くて良い声をしている。聞き覚えがある声。声優かな?


しかし、普通の人なら、「平倉さんは?」と聞き返すところ。

勝村は私に興味がないのか、コミュ力がないのか、緊張してるのか、何も言わない。


「ねぇねぇ、聞いて聞いて。」


「…?」


何をだ?という顔で見てくる。


「いや、私に緊張してるかどうか聞いて、って言う意味で。」


心得た。とでも言うように


「平倉さんは?」


と尋ねてくれる。めんどくさい顔を一つもしないところに好感を覚える。コミュ力がないとか思ってごめん。


「めっっつぁ 緊張してる!もう、練習なしに本番一発ってやばくない!?一生に一度しかないんだよ!?」


ほんとうは緊張なんてしてないけど、こっちの方が反応として面白い。

勝村も


「…そっか。」


と言って、微笑んでくれた。何かグッと来るものを感じた。



いよいよ、入学式が始まり、校長先生の話や在校生の歓迎の言葉を、優等生らしく、真面目に微笑んで聞いていたら、


「新入生代表の言葉  勝村茶銀!」

「…はい!」


私は驚いた。そういうイメージがない。後に、小学校の時、勝村の担任をしていた先生がごり押ししたらしい。という噂を聞いた。


「新緑交じりの桜が美しく咲く今日。私たち、261名は、堂東中学校の1年生として、入学式を迎えることが出来ました…」


うん、良い声、低くてびっくりするかもだけど。


「みなさん!元気ですか~!!!」


急にマイクをオフにして叫ぶ勝村。騒然とする式場。満足そうな先生方。


その後もユーモア交えつつ、挨拶を終えた勝村。 

話しかけたかったが、さすがに式中に話しかけるわけにはいかず。


式はその後、つつがなく終わった。あいつは何者だ…?あんな人いたか…?という声がちらほら聞こえる。

 私は感動をもてあまし、式が終わるのを今か今かと待っていた。

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