武踏舞闘革命(だんす・だんす・れぼりゅーしょん)
於田縫紀
武踏舞闘革命(だんす・だんす・れぼりゅーしょん)
街門の外での第1中隊と反乱軍の戦いを、魔法使いによる遠視魔法で視認する。
「右左下左! 右上右下……」
「マーベラス!」
「53コンボ!」
異様な掛け声と踊るような連続したステップで、反乱軍の
これは平民ダンス、奴らの自称では
この武術によって、精鋭の筈の近衛騎士団員が一方的に倒されていく。
近衛騎士団を預かる私、シャルル・ドッツボ・ハマール公爵にとっては、まさに悪夢の光景だ。
やはり
そう思っても、今となってはどうしようもない。
◇◇◇
10年前の王国暦101年、ベネッサ・ヨクバーリ王は、武装蜂起を防ぐべく、平民に対する刀狩りと魔法狩りを行った。
刀や剣、槍等、一定以上の大きさの武器を隠匿した者は死刑。
平民で攻撃魔法を使える者は無効化魔法陣で無力化した後、やはり死刑。
平民が持っていた武術や魔法の本も全て回収。
そうやって牙を抜いた後の王国暦104年4月、ベネッサ王は平民に重税を課した。
もはや平民に反抗する武力は残っていない。
それに生活がやっとの状態ならば、反抗する体力も気力もなくなるだろう。
その筈だったのだ。
そんな正しい体制となった我が国の各所で、奇妙なダンスが流行りはじめたのは、王国歴5年頃から。
最初は足運び中心の不格好な動きだった。
王宮や貴族の屋敷等で行われる優雅なダンスとは全く異なる、不体裁な代物だ。
しかし次第にその場で回転したり、しゃがんで両手両足を別の場所につけたりするようなトリッキーな動きが出てきたり。
貴族のダンスとは異なる様式美が見られるようになってきたのだ。
実は王国歴108年頃、私はその平民達の動きに興味を持った。
なので部下に命じ、そうやって踊っている平民の1人を斬り殺して教則本を奪い、自分で試したのだ。
3日間試してみた。
交互踏み、ビジステップ、スライド……
無理だ! まるで踊れない!
平民でも出来る動きなのに、最上級の貴族たる公爵の私が出来ないなんて……
悔しくて3夜程、布団の中で枕を涙で濡らした。
しかし朝、私は気付いた。
私が悪いのではない、私にそんな思いをさせた平民のあの踊りが悪いのだと。
私はあの踊りを平民ダンスと名付け、領地内で禁止した。
更に、王国全体で平民ダンス禁止令を出すべく評議会に持ちかけたのだ。
「あの平民ダンスは、貴族たる我らを愚弄するものだ。ただちに禁止令を出し、武器や魔法と同様、厳重処分とすべきだ」
しかし残念ながら、王や他の貴族の同意は得られなかった。
「平民のやる事など捨て置け」
そんなベネッサ王の、やる気の無い一言が結論だ。
あの時禁止令が出ていれば、今のように追い込まれる事はなかった。
そう思うと、私には王国の公爵にふさわしい先見の明があったと言えるだろう。
そして今年、王国歴111年3月。悪夢の事件が起こった。
アフロ頭の不審者が、王国で最も格が高い舞踏会場とされるRock鳴館に乗り込んだのだ。
更に周囲を取り囲んだ衛兵と衛士隊長ダーメンズ伯爵に対し、男は宣言した。
「私は天下無双の
そして時は来た。今こそ
男はその後、衛兵3個中隊225名をただ1人で、しかも武器無しの無手で倒し、Rock鳴館を立ち去った。
翌日、全国各地で、あの平民ダンスこと
◇◇◇
あれから3ヶ月。
既に平民ども、自称
そして貴族子弟を中心として編成された我が近衛師団も、出撃せざるを得なくなった。
王都を護る筈の第1騎士団が、壊滅的被害を受けてしまったからだ。
本来戦闘任務に就くべき第2騎士団から第6騎士団は、もはや戦力がほとんど残っていない。
平民の団員のほとんどが脱走してしまったからだ。
中には平民ダンスを使って反逆行為をしている者までいる始末。
平民だけに、物の道理がわかっていないのだ。
そう、正しいのは我々だ。
しかし時の勢いというのは、今は向こうにある。
私はここで、戦略的撤退をするべきだろう。
我がハマール公爵家は、王族の血を引いている。
私だけでも助かれば、王国は復興出来るのだ。
平民ダンス禁止令に同意しなかった愚かな王や貴族は、ここで滅びるがいい。
先が見える私こそが、いずれこの国を取り戻す。
そう考えた私は、近衛騎士団副長のアタマ・タリナーイ伯爵に命令する。
「このままではじり貧だ。戦力の出し惜しみをせず、近衛騎士団の全戦力を投入して、前面の平民どもを撃退する。
私が第2大隊を率いて北門から出る。タリナーイ伯は第1大隊を率いて、引き続き防衛にあたってくれ」
「は、はい。了解致しました」
タリナーイの奴、自分が出ない事に安堵している模様だ。
しかし甘い。ここに残ることこそが危険だ。
第1大隊のうち第1中隊は正門から打って出たが、もはや壊滅に近い状態だ。
しかしまだ近衛騎士団には、第1大隊の第2中隊から第4中隊、そして第2大隊がいる。
そして大隊は400人編成だ。
私を中央にして全力で出て全力で逃走すれば、少なくとも私は逃げ切れるだろう。
王都にはまだ王や私以外の重臣が残っているのだ。
わざわざ包囲を解いて私を追うという事はないだろう。
領地のハルデス領は平民ダンスを禁止している。
逃げ込めばある程度は安全な筈だ。
そこまで逃げ延びて再起を誓うのが、この国を託されるだろう私の使命。
「第2大隊に命令する。これから大隊全部で出て、平民どもを追い払う。至急装備を調えて、北門内側に……」
「街門が破られました!」
私の命令はそんな兵の悲鳴に似た声で中断された。
「何だと!」
報告を求めようと思った私は、すぐに考えを変える。
門が破られたなら、此処は危険だ。
一刻も早く安全な場所へと隠れる必要がある。
「此処で徹底抗戦せよ。私は国王陛下に御報告に……」
私が全部言い終える前に、みすぼらしい服装の集団が飛び込んできた。
「上上下下左右左右!」
そんな叫びとともに、強烈な足技が私を襲って……
「マーベラス!」
(FIN)
武踏舞闘革命(だんす・だんす・れぼりゅーしょん) 於田縫紀 @otanuki
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