三題噺「天下無双」「ダンス」「布団」

水曜

第1話

 佐々木布団之助(ささき ふとんのすけ)は、布団を愛する男である。


 朝は布団の中でぬくぬくと二度寝し、昼は布団にくるまりながらごろごろし、夜はもちろん布団に沈む。休日は布団と一体化し、「このまま布団になれたら……」と本気で願うほどの布団愛好家だった。


 そんな彼にはもう一つの夢があった。


「俺は天下無双になりたい!!」


 しかし、彼に武術の才能はなく、勉強も苦手。唯一の特技といえば、布団から出ずに生活することくらい。


「布団の中で天下無双になれる方法はないものか……」


 そんなことを考えながら、布団に包まってテレビを見ていると、ある番組が目に飛び込んできた。


『世界ダンス選手権』


 そこには、世界のトップダンサーたちが華麗なパフォーマンスを披露し、観客の歓声を浴びていた。


「……これだ!!!」


 布団之助はひらめいた。


 布団に入ったまま踊ればいいのだ!!



 こうして彼は、「布団ダンス」の開発に乗り出した。


・布団の中で高速回転する「布団スピン」

・掛け布団を翻す「フワモコフラップ」

・枕をリズミカルに叩く「ピロービート」

・毛布を優雅に振る「ブランケットウェーブ」


 こうして生まれたのが、「天下無双の布団ダンス」 である。


「よし、これで天下無双になれる!!」


 布団之助は意気揚々と、地元のダンス大会にエントリーした。




 迎えた本番の日。


 会場にはヒップホップ、ブレイクダンス、ジャズ、バレエなど、さまざまなジャンルのダンサーが集結していた。


 そして、いよいよ布団之助の出番。


 ステージに現れたのは……布団をすっぽりかぶった男。


 観客がざわつく。


「……え?」


「布団?」


 彼は静かに床に横たわった。そして——


「布団スピン!!」


 布団ごと高速回転!!


「ピロービート!!」


 枕をドラムのように叩き、リズムを刻む!!


「ブランケットウェーブ!!」


 毛布を優雅に揺らし、まるで天女の舞!!


 最初は困惑していた観客も、次第にその独創的なダンスに魅了され、手拍子が起こった。


「すごい……!!」


「布団の中なのに、めちゃくちゃ動いてる……!」


 しかし、その時だった。


「クルァァァアアア!!!」


 天井が割れ、巨大なトリ が舞い降りたのだ!!


「な、何だ!? トリの降臨!?!?」


 そのトリは金色の羽を輝かせ、布団之助を鋭い眼光で見つめた。


「貴様……その布団の中で舞う姿……まさに天下無双……!!」


 会場がどよめく中、トリはこう続けた。


「我はダンスの神に仕える聖なるトリ!! 貴様こそ、ダンスの神に選ばれし者……!!!」


 観客は騒然となり、審査員は慌てて審議を始めた。


 そして、結果発表——。


「優勝は……佐々木布団之助!!! さらに特別賞として『神のダンサー』の称号が与えられる!!!」


 観客の歓声が爆発する中、布団之助は布団にくるまりながら言った。


「これにて、俺こそが天下無双の布団ダンサーだ!!!」


 ——そして、そのまま神のダンサーは眠りこけた。







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三題噺「天下無双」「ダンス」「布団」 水曜 @MARUDOKA

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