一夜限りの迷作劇場

高山小石

再現はできない

 幼稚園に通う子に、眠る前に読む絵本を自分で選んでもらうようにしていると、


「これよんでー」


「『おどる12人のおひめさま』、ほんとに好きだね」


「うん! だっておもしろいんだもん!」


 ひと月以上、お気に入りの一冊が続くことがある。ハマると長い、子どもあるあるだ。


 『おどる12人のおひめさま』のあらすじはこうだ。


 ある国に十二人のお姫様がいる。お姫様たちは全員ひとつの部屋で寝ている。部屋から出た様子がないのに、夜には綺麗だった靴が翌朝には、はきつぶした状態になってしまう。


 王様が姫たちにきくと、なにもしていないという。姫たちの部屋の前に見張りをたてても、部屋から出ていないことが証明されるだけ。


 何日も続くので、ついに王様はおふれを出す。みごと姫たちの靴の謎を解いた者には姫と結婚させよう、と。


 隣国の王子やら何人もの挑戦者が現れ謎に挑むが解き明かせない。そこに意外な主人公があらわれて、最終的にハッピーエンドになる。


 よくある話と言えばそうなのかもしれないが、エロール・ル・カインの緻密ちみつな絵は美しいし、出だしはまさにミステリだし、深読みもできる。なにが子ども心にささったのかはわからないが、どことなく日本昔話感もあり、私も好きな絵本だ。


「んじゃ、読むよー」


 しかし毎晩の朗読がひと月以上続き、ときどきアンコールまでされて、絵本にしては長いのに、絵本を開かなくても朗読できるまでになってくると。


 この絵本を大好きな子どもの手前、「たまには違う絵本も読みたいなぁ」とは言い出せないが、体温の高い子どもと同じ布団で横になっていると、すっかり覚えている内容なのもあり、眠気で文字を追えなくなってきた。でも大丈夫。暗記しているのだから、目を閉じていたって朗読でき……


「お姫様たちは……階段を……トリの降臨」


「えっ。とりのこおり?」


「……トリノオリンピック」


「とりさんたちのおりんぴっく? こおりは?」


「氷の上で……ダンスしました」


「とりさんになって、おりんぴっくにしゅつじょうして、あいすだんす。それで、それで? つづきは?」


「そりで……月に……」


「とりさんになったおひめさまは、おりんぴっくでおどったあと、そりにのって、てんにかえったの?」


「天下無双……」


「てんつかむぞー?」


「……天下一武道会」


「いちばんつよいのがだれかたたかうやつ?」


「…………」


「ねー、まま、つづきは? ままー?」


「……ごめん。ねむ……おやすみ……」


「もー、わかった。おやすみー」


「…………」


 ままはきょうもよんでるとちゅうでねちゃったから、つづきはいつもあたしがかんがえるんだ。


 おひめさまはとりになって、あいすだんすでおりんぴっくにしゅつじょう。それから、そりでつきにかえって、いちばんつよいひとをきめるたいかいにでる。


 つまり、きょうのおひめさまは、たたかうおひめさま!


 きっとちきゅうには、しゅぎょうにきてたんだ。たしか、つきよりちきゅうのほうがおもいから。ひとばんじゅうしゅぎょうしてたら、くつもぼろぼろになるよね。


 とりさんのおりんぴっくにでたのは、つきにいくそりをかりるため。つきにすんでたおひめさまだから、とりさんのすがたにもなれる。でもつきまではとべなくて、とくべつなそりがほしかった。


 たたかうときは、ぷ◯きゅあみたいにへんしんするんだ。でも12にんもいるから、ひとりひとりなまえをいってたら、ながすぎてやられちゃいそう。


 あ、みじかいなまえならいいかも。くれぱす12ほんだし、いろのなまえがいい。


 れっど! ぶるー! ぴんく! って、ひとりずついって、ちーむめいだけこえをあわせるんだ。みんなとのひっさつわざするときもいっしょにいわなきゃで、けんかしてたらあわなくて、ぱわーはんげんしてぴんちになる。


 まけそうなときにぎりぎりなかなおりできて、みんなのちからがあつまって、すごいひっさつわざがさくれつ! たいかいでゆうしょう……あれ、なんか、ふわふわ……。


「ふわぁ。ままー、あしたのおひめさまも、たのしみ…………」

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一夜限りの迷作劇場 高山小石 @takayama_koishi

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