【KAC】最大の敵【三題噺】

雨宮 徹

最大の敵

 もうすぐ春になるという三月のある日。私は布団の中でぬくぬくしていた。そう、猫がこたつで丸くなるように。寒いからだけではない。この季節になると花粉が飛び始め、外に出るのも億劫になる。



「実家暮らしだと、こういう時に便利ね。買い物はママが行ってくれるし」私は一人ごちる。



 働き始めてからも実家で暮らせるのはありがたい。学生寮で暮らすとお金がかかるという理由でママを説得した。お金がかかるのは事実だけど、本当の理由が別にあることはママも薄々勘づいているに違いない。



 ボーとしていると、スマホからピロリンと音が鳴る。画面を見るとカナちゃんからのメールだった。「今度のダンスパーティの練習どうする?」という、いかにも学生らしい内容だ。



「ダンスパーティのこと、すっかり忘れてたわ……」



 しかし、私には練習などしている時間はない。すぐさま「ダンスの練習はまた今度ね」と返信する。きっとカナちゃんも事情を分かってくれるだろう。私の置かれた状況を知っているのだから。SNSを見れば、誰にでも分かるけれども。



 すると、今度はスマホから警報音が聞こえてきた。警報音が意味することは一つ。怪獣が現れたということだ。



「ついに、お仕事の時間ですか……」



 私だって普通の女の子として生活したいが、怪獣は待ってはくれない。布団にお別れを告げると、渋々パイロットスーツに着替え始める。



「ちょっと、この服キツすぎない!? いや、私が太っただけか……」



 パイロットスーツと格闘すること数分。やっと着替え終わる。時計を見やると、基地への集合時間を三分オーバーしている。せっかく実家暮らしで学生寮より基地へ近いのに、無駄になってしまった。



「はぁ、また先輩に怒られるわ。そんなことは置いておいて。まずは怪獣退治ね」



 戦闘機を扱える人材は限られている。早くしなくては被害が拡大してしまう。「市民を守る」それが私の仕事。



 外に出ると角を生やした怪獣が目の前に現れた。ユニコーンに近いけれど、可愛らしくはない。直感が正しければ弱点は角だろう。



「あー、マスク忘れてた!」国民の多くが花粉症なのだから、天下無双のパイロットにも弱点はある。そして、あることに気がついた。今回、怪獣とドンパチするのが森だということに。



「怪獣退治のついでに、杉を爆撃しましょうか」



 市民を花粉症からも救う。一石二鳥だ。そして、こう思った。杉がなくなれば、花粉症の先輩も遅刻を大目に見てくれるだろうと。

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【KAC】最大の敵【三題噺】 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993

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