19 辺境と魔道具


「メイはこれを付けていてくれ」

 彼らは私に魔道具を付けた。それは小さなピアスで角度によって様々な色に変化する魔石が付いている。

「君の位置情報と防御魔法、結界魔法が付与されている」

「それはジョゼフが作ったんだ」

「お前がどこに行っても分かるし、何かあっても防御できるし、近付く男は容赦なく弾く」


 そんな便利な魔道具を作るなんてジョゼフすごいな。

「異界人は魔道具好きだと聞いたが本当だな」

 エドモンがあきれ顔で目をキラキラさせた私を見る。

「異界人は辺境伯が好きだと聞いたぞ。メイも躊躇いもなく辺境に行くと言ったそうだ」

 ジョゼフが肩をすくめる。


 いや、辺境伯とか辺境騎士団とかネット小説でよく使われるお馴染みのネタだし、王都の次は辺境だよね。

 私の偏った嗜好を暴露されてしまって、ちょっと恥ずかしい。


 その日は休暇を取ったとかで、旦那様たちと一緒に庭園を散歩したりしてのんびり過ごした。


「あちらの方角に山が見えます」

 かなり高い山だろう雪を被った稜線が遠くに連なって見える。


 ネシェル・ラム辺境伯領は領都バーレイドの街を囲むようにして流れるマロム川の上流に深いタブーンの森がある。タブーンの森の奥にはミスリヤ山脈の高い山々が連なりマロム川の水源はミスリヤ山脈の山々である。

 ミスリヤ山脈には龍が棲まうという天高くそびえる高い山々がある。龍が荒れると麓のタブーンの森に棲まう魔物たちも荒ぶるという。


「龍ですか?」

「ああ、辺境伯の城館からミスリヤ山脈の山々が見える。その一番高い山に龍が棲まうという」

「龍ってどっちだろう、長いヤツ? それともドラゴンみたいな火を吐く──」

「龍は胴体が長い。ドラゴンは山の麓にいる。俺も見たことがあるぞ」

 そうなんだ。何となく長いヤツの方が偉そうに思える。


「そういえば移民局の手紙に聖獣と書いてありましたが、こちらに聖獣はいるのでしょうか」

「王家には聖獣がいるというが、ジョゼフのデュルフォール公爵家は王家と縁戚関係にある。見たことはないのか?」

「王家の聖獣は聖なる鷹だと聞いているが、私は見たことがない」

 聖獣が鷹だとかカッコいいわね。それにしても王家と縁戚とか身分が違いすぎる。


「辺境伯家に聖獣はいないのか」

「聞いたことがない」

 二人は肩をすくめる。

「どんな聖獣が来ても養ってやろう」

「可愛い聖獣がいいです」

 有名どころにフェンリルがいるけれど、白いウサギがいいな。


 夜はやっぱりというか、二人に揉みくちゃにされた。愛されるってこんなにハードなの? 逆ハーレムを狙ったヒロインって何を考えているんだ。


  ◇◇


 エドモンは結婚を機に辺境騎士団の第三騎士団副団長に昇進したという。ジョゼフは商会を持っていて自分で作った魔道具を売っている。そして、結婚を機に騎士団の魔法教官兼魔法騎士として招かれた。


 そういうわけで、翌日から旦那様たちは仕事に行った。

「行ってくる、メイ」

「行ってくるぞ、メイ」

「行ってらっしゃいませ、ジョゼフ様、エドモン様」


 二人の旦那様を送り出すと、私には教師が付けられ、一般教養、礼儀作法、ダンス、楽器、刺繍等の教育を受けている。最初は身構えたけれど、ここは辺境なので教育もそんなに厳しいものではなかった。


 こちらの女性たちは王都以上に大柄だ。童顔で中肉中背の私は、ほとんど子ども扱いされてしまう。

「こんなかわいいお嬢様があのような大男たちのお嫁さんなのねえ」

「お可哀想です。何かあったらわたくしに仰いな」

 同情的な目で見られ、可愛がられまくり、至れり尽くせりである。

「メイちゃんのお好きなスィートポテトですよー」

 こんなに甘やかされていいのかしら。



 そんなある日、エドモン様の妹のアニエス様がいらっしゃった。エドモン様と同じオレンジっぽい茶色の髪に緑の瞳。とてもきれいな令嬢だ。最初の日と違ってずいぶん友好的になっている。

「すぐに遊びに来ようと思ったんだけど、お兄様が煩くて」

 そうおっしゃるアニエス様は16歳だ。私より大人っぽくて私より色っぽくて、メリハリのあるボディをお持ちで、その上16歳だ。とてもじゃないが私なんか足元にも及ばない。


「ゴーレムちゃんたちは?」

「はいただいま」

 リクエストにお応えして土人形の入った布かごをテーブルに置くと、土人形たちがかごから出て揃って挨拶をする。

 アニエス様は歓声を上げて「名前はあるの」とか「この前の合体はどうするの?」とか質問攻めだ。


「アニエス様は王都の学校には行かれないのですか」

 16歳と言えば高校生だ。異世界物で学園を舞台にした話は、婚約破棄と断罪とセットになって多い。現物でそんな話があるだろうか。と、チラと考えたのが間違いだった。

「王太子殿下が聖女様と仲良くなって、わたくしと婚約破棄するって言うんで帰ってきましたの」

「え……」

 引きが良すぎる……。


 聖女って私の他にもいたのね。いや、私はまだ聖女になる勉強もしていない。王太子の婚約者が辺境伯の令嬢というのも読んだことがあるが、アニエス様はジョゼフ様と婚約する予定というのはどうなったの。ええと、どこから突っ込めばいいのか。


「いやー、そんな話もあったけれど王太子との婚約話が持ち上がって立ち消えたわ。別にどっちもなんとも思っていないわよ」


 そうなんだろうか。もし私との結婚話が無ければ、私が身を引けば、私がこの世界に移民として来なければ、たくさんの選択肢を潜り抜けて結婚しちゃったんだわ。


「ねえ、メイ。そんな顔しないで。ジョゼフとかなんとも思っていないし、私からすればオッサンだし」

 ああ、アニエス様って男前だわ。カッコいい。それに比べて私は──。

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