08 生活魔法
「あのう、生活魔法はどうやったら使えますか?」
色っぽい部屋着でくつろいでいるアガット教官に聞く。
「生活魔法は属性魔法を覚えれば使える」
「私は移民局で属性魔法は何もないと言われました。だから辺境に行くことになったのですけど」
「そりゃあ、何か属性を持っていたら、王家に引き止められるだろう」
「え? でも生活魔法が使えるって──」
移民局から手紙が来て……。
「そうか、じゃあ属性魔法を覚えたんだな。後から使えるようになるのは珍しいことじゃない」
「そうなんですか。でも、何の魔法を覚えたのか分かりません」
私がそう言うとアガット教官は少し考えてから、ナイトテーブルにグラスと飲みかけのお酒のボトルを置いた。
「じゃあ魔力を充填の要領で、このグラスに注いでみて」
アガット教官はグラスにボトルのお酒を注いだ。
「魔力を少し注いだらいいんですか」
「そうだ」
教官は腕組をして興味津々といった感じで見ている。
目の前のグラスに半分くらいお酒が入っている。白ワインだろうか。淡い黄色の液体だ。フルーツと柑橘系の香りがする。
充填の時と同じように指先に魔力を移動させて、ゆっくりと少しずつグラスの中に注ぐ。研修室の教師に教わった通りに、
細く緩やかに切れ目なく流し込んで──。
「よし、もういい」
アガット教官の静止ではっと我に返った。彼女はグラスを持ち上げて色を確認し、匂いを確かめて指にとって舐めた。
「ふむ」
そのままグラスを持ってドアを開けて部屋を出ていく。
「教官?」
いや、その色っぽい部屋着姿のままでどこに行くのか。彼女は外ではなく二人の男どもの部屋に行く。私が追いかけて静止する間もあらばこそ、アガット教官はドアを開いた。
いきなりドアを開けられて、二人の男がバッと身構えて振り向いた。普段のでろんとした態度と違い、目付きが非常に鋭くて圧もあって怖かった。手を握って胸元に当て立ち竦む。
「なんすか、アガット姉さん。夜這いされたと従兄のヴァランに言い付けますよー」
呆れた声でエドモンが言う。二人とも腕がむき出しのシャツと緩いパンツをはいている。非常に体格が良くて立派な筋肉がついている。
「きゃっ」私はパッと目を覆った。
「ん、どうしたメイ」
アガット教官が振り返る。いや、こんなすらりと美しく伸びた肢体に無理なく無駄なく筋肉が隆々と付いた実物は見たことがない。迫力があり過ぎて非常に目の毒だ。
「どうした、じゃないですよ」
「アガット姉さんは見慣れているかもしれないけど」
ジョゼフとエドモンが呆れたように言う。
「見慣れて……」
私の小さな呟きにアガット教官が反応した。
「誤解するなメイ。私の婚約者はそこのエドモンの従兄だ」
「従兄が婚約者」
それで仲が良かったのか。ていうか、3人で仲がいい感じだったのだけど、鍛錬の時も3人で内緒話をしていたし。
「いや、誤解も何も上着を着て欲しいというか」
「ああ、そうか」
エドモンとジョゼフは顔を見合わせた、そして私を見たエドモンが何故か顔を赤らめて口元を手で覆う。それを見たジョゼフがチラリと私を見て言うのだ。
「メイは着痩せするタイプなんだな」
「おまっ」
「えっ……?」
私もパジャマ姿だった。昼間のだぼだぼのTシャツと違って、それなりに体にフィットして、それなりに襟ぐりの開いたパジャマだ。
「きゃあああーー」
走って部屋に逃げ出す私の後を追いかけながら、アガット教官が色っぽい部屋着を見せつけるように歩く。
「私はどうなんだ」
「姉さんもガウンを羽織ってください!」
とても疲れた一幕が終わって、改めて私たち4人は真ん中の広間に集まった。
「このグラスだが、先ほどメイに魔力を流してもらった」
ガウンを羽織ったアガット教官がグラスを追加してワインを4つのグラスに注ぐ。エドモンもジョゼフも私も上着を羽織っている。4人それぞれがグラスを手に取って匂いを嗅いで口を付ける。
何だろう、甘い。魔力を注ぐとワインは甘くなるものなのだろうか。一口飲んでみる。
どうしたんだろう。癒される。もう一口。ああ、馬車旅の疲れが癒されて、ふわふわと気持ちがよくなってきた。そして眠くなってきた。
朝の目覚めは気分爽快だった。
「ふわあああー、よく寝た」
腕を伸ばして欠伸をして周りを見れば、大男二人とアガット教官が思い思いの格好で眠っていた。
大男も眠っていると可愛い。アガット教官は眠っていても色っぽい。
だが大男二人が起きて「昨夜のメイの寝顔は可愛かったな」「口が少し開いて舌が覗いて、なかなかエロかった」と言うのだ。
こいつら何処を見ているんだ。
「それから──……」
仲良く肩を組んでごにょごにょと内緒話をしていた大男二人は、私の顔を見るとそそくさと自分たちの部屋に戻って行った。
何なの、ほんと何なの。
◇◇
馬車旅はのんびりから急ぎ旅になった。エドモンとジョゼフは鎖帷子や皮鎧で武装して騎馬で馬車の横を走る。
「どうしたんでしょう」
「急いだ方がいいかもしれん。途中で引き止められるのも面倒だし、少し山道を行く」
「そうなんですか」
その後、アガット教官の言うように馬車は横道に逸れて馬車一台しか通れないような山道へと入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます