くすり、と笑う。
@Yuuuuzan
第1話
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
雲の灰色に包まれた私は、その中を一人歩く。ただまっすぐに、前だけを向いて。下を見てはいけない。これは3回目の時に学んだことだ。私の足場は、一枚の限りなく長く続く板によってできている。1回目の時、好奇心のみに足を任せ一歩踏み出し、また一歩と踏み出してから、もう後には戻れなくなった。風は吹かず、板も軋まず、ただ静寂が耳を支配している。自分の息遣いだけが、静寂が気に入った音だった。
渡っている...辿っている?その板は、毎回細くなりつつあったので、今日はどれくらいになっているやら。気にはなるが、事実を知ってしまえば足がすくんでちゃんと歩けなくなり、落ちていく気がして、前を向き続けた。道の終わりは未だ見えず、永遠とも言う時間を渡る。静かだな、と思ってすぐ、親の顔が頭に浮かんだ。
ああ、私の心の中が静かでいられるのは夢の中だけだったな。友人関係を深堀りされて嫌になって、疎遠になった親友。学力も気にいらないといって、スマホから読書まですべての娯楽が取り上げられた。結局、何一つ良くなったものはなかった。一つ反抗すれば、朝まで怒鳴る。一通り暴れた後猫なで声で謝ってくるが、それが本心からの謝罪ではないと分かっている。
回想が終わったところで、眼の前の現実...夢か。夢に意識を向けた。
板を渡るのは、これで最後な気がしている。上は向かない。つらくなってしまう。でも思えば、歩くことに辛さを覚えたことは無かった...感じる暇が無かっただけかもしれない。たぶん終わりは無いから、ずっと辛かったら身が持たない。
でも、疲れた。...疲れた。立ち止まって、下を見た。足場なんて無かった。それが分からない内は、なにかに向かって歩けていた。でも、事実が私の足を掴み、奈落に落としてしまった。でも、ずっと求めていた瞬間だったかもしれない。「疲れたね」「もう休んでいいんだ」と肯定してほしかった。けど最期まで、私は一人だった。雲のふわふわが、私を包みながら自分でできたベッドに寝かしつけた。
おやすみなさい
「あの子、薬飲んで死んじゃったんだって。」
「暗い子だったし、なんか納得笑」
「「ねー」」
くすり、と笑う。 @Yuuuuzan
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