ナツの夢【KAC20254 (お題:書き出し指定「あの夢を見たのは、これで9回目だった。)】

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 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 ――もうすぐ、叶うよ。


 目が覚めて、夢の余韻にひたる。

 夢の中で、つややかな黒髪の女の子が「もうすぐ叶うよ」と言っていた。


 カナウ、かなう。願いが叶う。


「――なんのことだっけ」


 あの子が、誰のどんな願いごとの話をしていたのか、ぼんやりしていて思い出せない。なにも。


 最初にあの夢を見たのは、5歳の春だった。もうすぐ小学生になるからと買ってもらったランドセルに胸を躍らせたのを覚えている。

 まだ夜は肌寒くて、あたたかい掛け布団にくるまって眠りに落ちた。


 つややかな黒髪の女の子に、大きな建物を案内される夢だった。とてもワクワクして楽しかった。


 朝起きて、ピカピカのランドセルを見ながら、つややかな黒髪の女の子と学校で遊べたらいいなと思った。


 それから、毎年まだ肌寒い頃の春に同じような夢を見ている。つややかな黒髪の女の子と2人で大きな建物の、赤い絨毯が敷きつめられた階段をのぼって遊ぶ夢。


 カナウ、かなう。願いが叶う。


「――なんだっけ」


 女の子と何か話したような気もするが、思い出せそうで、記憶にもやがかかったようにうまく思い出せないのが、とてももどかしかった。


 4月からは受験生だ。


 叶うなら――あのつややかな黒髪の女の子と一緒に勉強ができたらどんなに楽しいだろう。


 その翌年から僕はあの夢を見なくなった。




 ―――


 私は、ここまで読んで顔を上げた。

 目の前には、この原稿を書いた友人のナツがいて、不安そうに私の顔色をうかがっていた。


「ど、どうかな?」


 私は、率直な感想を口にした。


「見た夢の回数、9回って数えてたの……?」


 それを聞いてナツの眉毛がハの字に下がった。


「うん、14歳までは毎年3月2日の夜に必ず見ていたし、最初にあの夢を見た時に、小学生になったら会えるかもって強烈に感じたから覚えているんだ。ちゃんと数えたわけじゃないけど」

「そう」

「実はね、小学6年生まで、結局あの子に会えなかったからがっかりしてたんだ。所詮は夢で、小学生で会えるっていうのは僕の思い込みだったんだなって」

「でも、夢は見続けてたから、中学2年の時にヒマリが転入してきたときは嬉しかったよ。やっぱり来てくれた!って」


 読んでくれてありがとうヒマリ、とナツは私の手から原稿をとり、帰って行った。


「え?」


 ナツの言葉に衝撃を受けているうちに、聞きたいこと

 を聞きそびれてしまった。


「ナツは、私が転入生だって覚えているの……?」



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