9話目 女ボーカル獣人✖️人間(後輩)

 今日もいつも通りゼミに出席する、そろそろ卒論をしっかり書いていきたい時期だ。教授の話がまとめに入りタイミングよくチャイムがなる、卒業要件を具体的に話していきロードマップを完成させた。

 

「…くん…てる?」

 

 このままあと一年問題なく過ごせばすでに内定を頂いている会社に就職するだけだ。


「…聞こえてる!?」

 

「え?あっ、ごめんごめん」


「よかったー、無視されてるのかと思ったわ!w」


 突如話してきたのは同じゼミの同級生、とは言っても留年しているため実質先輩だ。髪は染め直すのを怠っているようでプリンのような色で薄いシャツを1枚きている、遠目から喫煙所でよく見かけるチャラい人という印象だ。普段はあまり関わらないがなんのようで話しかけてきたのだろうか


「それでさぁ!俺今バンドやってんだけどライブ来ない?w」


「ら、らいぶ?」


「そ、ライブ、いっつもイヤホンしてなんか音楽聞いてるっしょ?ならライブも好きかなって!w」


 あまりにも雑な誘い、だが少し断りにくい。俗な名称を使うのはあまり好まないが所謂陽キャ、陰に生きる自分にとってあまり強く出れない存在なのだ。


「あー、じゃあ行ってみよっかなー」


「お、マジ!?じゃあこれチケット、2500円だから!w」


 金取るのかよ!?だが行くと言ってしまった手前断りづらい


「あっ、じゃあこれ」


 財布から金を抜き取る


「おっ、毎度あり!wマジで楽しみにしててくれよ、めっちゃ頑張るからさ!場所はこの紙書いてあっからさ今日の18時にやっから待ってるぞ〜!」


 しかも今日!?こうなったらできる限り楽しむしかない、払った分だけはなんとか回収するしかない、幸いにもチャラ先輩以外にも3組ほど出るようで調べたところそこそこの人気があり中でもトリの獣人ガールズバンドはテレビ出演もしたことがあるようだ。


「…ちょっと楽しみになってきたか?」

 

 時間も過ぎ時刻はライブ開始直前になっていた、早めにライブハウスに入りあまり飲まない酒を片手に準備中の先輩 (同級生)を眺めていた。


「おっしゃかますぜー!!」


 先輩がギターを鳴らし掛け声を上げる、メインボーカル兼ギターの様だ。意外にもファンが多いようでそこそこの歓声が上がる、ライブハウスは大きな箱とは言えないがそれなりの人が入っている。


 先輩とバンドのパフォーマンスはなかなかで激しい演奏だった、取り敢えず昨日来たことを後悔することはなさそうだと感じた。


「ふぅ…昨日来てくれたみんなありがと〜!!!マジでがんばっから着いてこいよ!!」


 ゼミの初日、本気でバンドをしてると言っていた先輩に対して斜に構えた自分を恥じた。彼は文字通り本気でバンドをやっていた、最後の曲も終わり締めの挨拶をしている。


「ッはぁはぁ…改めて今日来てくれたみんなマジでありがとう〜!」


「hoooo!」


 既存のファンと一緒に関係を上げる、彼が歌い終わる頃にはすっかりとファンになっていた。


「それと急に今日誘って来てくれたやつ、マァ〜ジでありがとう!ほんとに助かった!」


 恐らく自分に対する言及、今日の朝までは苦手意識のあった先輩(同級生)からの言葉に今は少し目頭が熱くなる。今はこちらこそありがとうという気持ちでいっぱいだった。


「俺たちの出番はこれで終わっけどまだまだバンドはあっから全部みてってくれ!こっからも熱くなるぞー!!」


 最高の挨拶をして去っていった、それからのバンドグループたちはどれも個性的で想像を超える完成度でとても盛り上がった。だがそんな盛り上がりは序章だったと言わんばかりに突然人が大量に入って来た、例のガールズバンドの出番が来るからだ。


 そんなことを考えていると突如とんと肩を叩かれ声をかけられる


「よう、俺たちのライブどうだったー?」


「先輩っ!もう本当に最高でしたよ、今日誘ってくれてありがとうございます!」


「声デカ!でも良かった、結構無理に誘ったからさ」


 その自覚はあったのか


「でも、来てくれれば満足させる自信あったんだ」


「いや、本当に満足しましたよ!次あるならまたチケット売ってくださいよ先輩!」


「ははっ!マジでありがとうな、というか俺ら同級生だろ?先輩じゃなくて普通に名前でいいぜ」


 先輩のかっこよさに感動していると言いずらそうな雰囲気を醸し出す、頭をかるくかきながら少し悔しそうに言葉を続ける


「それにな、最悪俺たちのバンドが気に入らなくてもあいつらなら絶対に満足させてくれるってな」


「あいつら…?もしかして」


「あぁ、始まるぞ」

 

 恐らくメインボーカルの薄いタンクトップを着た狼耳の女性、髪は灰色で短く大きく見開いた目からは獰猛さを感じる。


「待たせたなぁ〜!今日はトリだ、もう体力ねぇとか言わねぇよなぁ!!」


 低く響くハスキーな声はいかにもバンドマンな声だ、しかし今日の誰よりも綺麗に聞こえるのはマイクとの相性だろうか。楽器は何も下げておらず恐らくボーカル一本なのだろう


「他のバンドがだいぶかまして来たからなぁ!オレらも飛ばすぜぇ!!」


 ボーカルのコールと共に楽器をかき鳴らし場を盛り上げる、一瞬で客の心を掴んでいる手腕は見事の一言。その掴まれた1人に自分も含まれていた


「あれがここで一番人気のあるバンドだ、メジャーデビューの話もあるらしい」


 解説は頭に入っているものの前から目を離せない、彼女の獰猛な瞳から目を逸らせば喰われてしまうようなそんな雰囲気があるからだ。


 それからのパフォーマンスは圧巻だった、その日最後だったのが良かった。1日大音量に晒され大きな音に慣れていなければ迫力に負けていただろうと確信をもって言える、だが、ただ迫力に飲まれるだけではなくバンドの完成度や音楽の完成度はピカイチ。演奏中のパフォーマンスはかっここいいの一言に尽きる、何よりその目に魅せられた。ライブ中一切目を離せなかった、外せば喰われる。いや、見ていながらも彼女の熱唱に喰われていた。


「ありがとーー!!サイコーの夜だったぜー!!」


 演奏も終わり彼女が締めの挨拶に入る


「…いや、今日来てよかったです」


「あぁ…悔しいがやっぱ勝てねぇ、あいつらスゲェわ」


 同じバンドマンからしてもはレベルが高いようで、少し悔しそうだがそれと同時に尊敬もしていそうだった。

 するとメインボーカルの獣人女性と目が合う


「いつも来てくれる奴はありがとな!そして今日初めて来た奴!どうだったか〜!忘れられなくなってたら最高だぜ!」


 まっすぐと目があっている気がする、発言も相まってまるで忘れるなと言われているような気がした。まぁ、言われなくても忘ないだろうが。


「どうだ、よかったろ?」


「はいっ!!」


 なんの憂いもなく大きな声で答えた、周囲は解散ムードで各々帰っていくのだろう。


「ははっ!よかったよかった、それとなこのあとバンドメンバーたちとデカめの宴会やるんだが来るか?結構人いるから逆に来やすいと思うぞ?」


 飲み会のお誘いだ、普段なら行かないがライブ中に飲んだ酒と熱に浮かされたまま返事をする。


「行きます!」


「おっしゃ!じゃあ早速いくか!」


 先輩のバンドメンバーと共に宴会場に向かう、入るとなかなかの大きさで深夜でもやっている店のようだ。視線を向けるとちらほらと先のライブで見たバンドグループ達の顔がある、どうやら先輩のバンドも含めた今日の参加グループ全体の宴会のようだ。


「おっ、きたきた!今日は主催ありがとなまだ乾杯してないから早よ座れ!」


 どうやら先輩が主催のようだ


「マジで!?あんた酒を我慢とかできたんだな、じゃあ禁断症状が出る前にいっちょ乾杯すっか!かんぱーーい!!」


「「「「「かんぱーい!」」」」」


 先輩の号令と共にみんなで乾杯をする、自分もちびちびでありながらあまり慣れない酒を飲む。あまり好きではなかったが人と飲むお酒は楽しかった、そして少し時間が経ちみんなが自由に席を移動する。


「おっ!結構飲んでるな〜、しかも意外と強いな!」


 先輩が隣に座る、さっきまでお酒の力を借り知らない人と話していた。楽しかったがやはり見知った顔に安堵する気持ちがあった


「キミ、見ない顔だねぇ〜」


「えっ?あっ!」


 先輩とは逆方向を見るとそこには今日のトリを務めたガールズバンドのボーカルが居た、相変わらず薄いタンクトップに軽く羽織ったパーカー、オオカミ耳と大きな瞳。今日ファンになったばかりの人が目の前に現れて狼狽える。


「どっかのバンドの知り合い?でも、ふーん。カワイイじゃ〜ん!」

 

 ライブの時の獰猛な雰囲気とは違う艶やかな空気に当てられくらりと来るものがある、無造作に近寄ってきその時に香る甘い香りが漂ってくる。


「おい、あんまり揶揄うな。こいつは今日初めてライブハウスに来たんだよ」


「ヘェ〜、それにしては熱心に見てくれてたねぇ〜」


 見ていたのがバレていて少し恥ずかしい、恐らく顔が赤くなってしまっているだろう。


「あんなに熱心に見てくれたらそりゃ覚えちゃうよ。それに、カワイイのはほんとだよぉ〜」


 ゆっくりと彼女が近づいてくる、肌と肌がくっ付くような近さまで


「しかもキミ、いい匂いがするねぇ〜、ふふっ、キミのこと気に入っちゃった」


「おいおいマジで言ってんのか?そいつは今日いきなり呼んできてくれたんだ、冗談だったらゆるさねぇからな?」


 揶揄われている自分を庇うように話す先輩、だが彼女に言い寄られている状況に現実感がなく酒精も相まってふわふわとした気分になってきた。


「あれ、酔ってきた?かわい、今のうちに匂いつけちゃお♡」


 宴会の喧騒に紛れて力強く抱擁される、突然され抵抗どころか理解することもできず、ただなされるがまま抱きしめられる。

 正気に戻りなんとか離れようとするも


「なッ何やって、力強っ!?」


「ふふ〜、話さないよ〜♡」


 あまりにもの甘い香りと雰囲気、ライブ時の姿はどこへやら。彼女の胸の中でもがいていると先輩に助けられる


「お前…もしかして酔ってんな?前もそれで酔い覚めた時に恥ずかしがってたのに学ばねぇな。それよか大丈夫か、随分好かれてんな?」


「いや、僕も何が何だか…」


 なんとか彼女の手からは逃れたがそれでもまだまだ距離が近い、そしてあの目だ。獰猛で獲物を狙う目、心なしか息も荒異様に見える。


「変なことはしてないさ、それに…」


 耳元まで近づき囁く


「キミも満更じゃないんだろ?」


 顔が一気に熱くなる、それと同時に酒も回ったのだろう少しふらつく。


「おっと、大丈夫かい?随分とお酒を飲んでたもんね、そろそろいい時間だし送ってこうか」

 

「い、いえ自分でかえ「送るね」…あっはい」


 小心者の自分がここで出てしまう、でも相手の好意を無碍にするのも悪いしそのままお願いすることにした。あまり飲まない酒を急にこんなに飲むとこうなるのは分かっていたのに、なぜか呑んでしまった。そのことは反省しつつ今日は大人しく眠ろう


「じゃっ、そうゆうことだから先帰るわ!お疲れ〜!」


「え、もう帰んの、どういうこと?ま、お疲れ〜」


 会場にいた複数の人たちもよく分からないが挨拶する、支えられながら歩く男が誰かという疑問を持ちながら。


「ふふ、ちょっとしんどそうだね。少し休憩できる場所に行こっか♡」








「しっかりとした展望を持って生活してたのに突然現れた女にめちゃくちゃにされるやつ」でした

更新頻度はめちゃくちゃ遅いですが辞める時は辞めると言うので、言わない限りそのうち更新があると思っていただけると幸いです。


読んでいただきありがとうございました

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趣味の短編集(人外女✖️人間) I can @yamatosn

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