蔦の頭の少女

青羽真

蔦の頭の少女

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 一度目は中学一年生の時の初夢。

 二度目は中学二年生の時、修学旅行中に見た夢。

 三度目は高校の入学式の前夜に見た夢。

 四度目は高校二年生の修学旅行中に見た夢。

 五度目は大学合格が決まったの時の夢。

 六度目は20歳の誕生日の前夜。

 七度目は成人式の前日の夜に見た夢。

 八度目は就職先が決まって喜んでいた日の晩に見た夢。

 九度目は昨日。会社を辞めた日の夜に見た夢。


 なんでこんなにはっきりと覚えてるかって? それはあの夢がとても鮮明で、とても印象的だったから。


 あの夢の中で、私は森の中にある湖の傍で、切り株の上に座っているの。

 そこで、一人の女性のようなナニカに会うんだよね。


 彼女の首から下は着物を着た普通の女性なの。

 だけど、首から上は蔦がぐちゃぐちゃに絡まったような物体で出来ているの。


 彼女の肉体は同性から見てもとても美しくって、そして仄かに甘い匂いがするの。


 あの子の見た目はちょっと不気味だけれど、不思議と怖くはないんだよね。

 敵意を感じない、むしろ私の事を大切に思ってくれているように見えるの。


 彼女に目は無いけれど、何故だかはっきりと私を見てるって分かるのよね。

 彼女に口は無いけれど、何故だかはっきりと私に伝えたい事が分かるのよね。

 彼女に耳は無いけれど、何故だかはっきりと私の思いが伝わるのよね。

 彼女に鼻は無いけれど、何故だかはっきりと私の匂いを感じて喜んでくれるのよね。



 ソレは私の前にある切り株にお上品に座るの。暫くは無言で見つめ合っているのだけど、それから彼女の方から話しかけてくるの。


「はじめまして」

「疲れてない?」

「緊張してる?」

「うるさいね、みんな」

「おめでとう、本当におめでとう」

「成人おめでとう。いきなりお酒の飲み過ぎはダメよ」

「旧友と会うのが楽しみなのはわかるけど、お酒は気を付けて」

「おめでとう。けど、大丈夫? あの会社、ブラックって噂だけど」

「大丈夫よ、心配しないで。疲れたなら休むべき、一緒にゆっくりしよう」



 初めは一言一言が短かく、ぽつりぽつりと会話していたのだけど。


 繰り返すうちにしっかりと話せるようになってきて、今では人間を相手に会話しているくらいはっきりと話せるの。



 また話したいな。



 次ぎ会うときは、もっと永くお話ししたいな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蔦の頭の少女 青羽真 @TrueBlueFeather

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ