第11話 身体検査
身体検査
今日は身体検査の日である。
パンツを下ろすことはないので安心はしているけれど、股間が目立たない下着をボクも穿く。
九歳なので、まだ胸がふくらんでいなくても目立つことはない。それより肩幅だったり、腰のふっくら感など、女性の体とのちがいが指摘されないか? そちらの方が気がかりだ。
大体、この世界は女性しかいないので、みんな胸を見せることにそれほど抵抗はない。異性にみられるかも……という心配は皆無であり、隠そうとする意識は思っている以上に少ない。
むしろ性については奔放、といえそうだ。
それでも隠そうとする子は、ただ恥ずかしい……という感じであり、逆に目立ってしまう。
だからボクも少し隠すぐらいにしておく。ボクにとって一番まずいのは、目立つことだからだ。
しかし、やはり一番目立つのはエミリアである。抜群のスタイルをほこり、それで堂々とふるまうので、みんなの視線を集めまくるのだ。
エミリアが目立って、ボクの存在がかすんでくれるとありがたいのだけれど、逆にボクは〝エミリアの恋人〟として、悪目立ちしてしまう。羨望の目でにらまれ、たじたじである……。
ただ、ロナはちがった意味で目立っていた。それはもう開発された、大人の身体を如何なく見せびらかす存在として……。
初心な子たちと比べたら、胸のふくらみから腰のくびれまで、多くを経験しているだけに違いが目立つ。それはいくら性に奔放なこの世界でも、九歳で出来上がっている子は少ないからだ。
身長、体重、視力、聴力といった基本的な検査から、魔力をはかったり、俗にいう体力測定まで行う。反復横跳びや、立位体前屈など……である。
しかも、それを下だけの下着一枚でするのだから、ある意味で大暴れだ。ズルは許さない、ということらしいけれど、胸をあらわにしたまま反復横跳びをしたら……。もっとも、胸のない子ならば問題ないし、逆に胸のある子は大変となってくる。ロナたちは胸を下から支えるようにして、必死で反復横跳びをするので、それだけで青息吐息だ。
同じように、メロも大変そうだ。でも彼女の場合、運動そのものがすべて大変そうだけれど……。
しかし、ボクも見るつもりはないけれど、みんなの身体をじっくり観察することができた。
同室のサイナはスリムで、まだ女性らしさといった雰囲気はない。部屋でもよく彼女の裸は見ているので、特に問題ない。フィーネは少し胸がふくらみかけるけれど、ロナたちのようなそれではない。純粋な成長、という感じだ。
ミスミもサイナに近いけれど、むしろこの辺りは平均といったところである。
それ以外で、庶民でありながら、細身でもしっかりと胸がある子がいた。ヤーナという。南の方出身で、日焼けした肌がちょっと異質だ。どちらかというと北に位置するこの国では、シャルのように肌の白い子が多い。シャルはその中でもかなり白い方ではあるけれど、ヤーナのような肌は小さいころにこの国に渡来した他の国の子かもしれない。
この世界では、昔は肌の色で差別もあったらしい。でも、男が滅んだ後でそうした差別は撤廃され、今では肌の色はその人の出自をあらわす……程度しか意識されなくなった。
ヤーナはバネのよく利いた体で、運動神経だけならエミリアに肉薄する。反復横跳びをするときなど、どよめきすら起こったほどであって、そこに意味は二つありそうだけど……。
「リュノさん、本気でやって下さい!」
上級魔法講師のドーズ先生から、そう指導される。ボクが手を抜いているのがバレたようだ。
でも、手を抜いている子はそれなりにいて、庶民で上の学校にいくつもりもないのなら、まじめにやるのがバカバカしい……というのはどこの世界でもあること。
ボクは単に、全力をだすと目立ってしまうから、そうしない。ただ八割でもそれなりの成績であって、下手をするとエミリア、ヤーナの次ぐらいになってしまうから、手を抜くのだ。
二百人以上いるので、一日がかりでやっていた身体検査も、そろそろ終わりに近づく。ボクとしては女の子の裸に囲まれ、うろうろしなければいけないので色々と大変だ。
もし意識して、反応してしまえばいくら目立たない下着といっても、不自然な膨らみができてしまう。
そう、女性だらけのここにいることは、ある意味でボクにとっては拷問に近い。女性の裸に囲まれるなんて、天国にいるようだけど、針の筵にすわらされているようなものなのだ。
むしろ立てたら針に突き刺さされることになるので、針の下着を穿いているようなもの、といってもいい。
それが終わりかけてホッとしていたけれど、そのとき事件が起きた。
魔力をはかることもその一つであるが、そこでボクが検査する直前、急に装置がトラブルを起こしたのだ。
猫の目、と呼ばれる水晶は魔力の特性によって、生徒を四色に分けるけれど、その量については示さない。
ここでは蛇の目、と呼ばれる装置によって魔力量を測定する。身体検査、体力測定と一緒に魔力をはかるのも、それだけ魔力が一般的で、かつみんなに備わったもの、と意識されるからだ。
ボクも魔法をつかえるけれど、魔力がどれぐらい? といった客観的なことは知らない。
知る方法もなかったからだ。
装置がトラブルを起こし、しばらく待ちの時間ができた。魔力があるからといって即、魔法をつかえるわけではない。以前も述べた通り、この世界では一旦マナに変換し、それを魔法に転換してつかうので、このシステム、コードがつかえないと魔法をうまく使えないからだ。
「お待たせしました」
ボクは蛇の目に手を入れた。その瞬間、装置がふたたびトラブルを起こす。初級魔法の講師、ザギと上級魔法の講師、ドーズがやってきて、色々と話し合った結果、いきなりボクに「私たちの手をにぎって」と、片手ずつ二人の手をとった。
すると、二人ともびっくりした顔をして手を放す。
「故障した原因がわかったわ。あなた、ものすごい魔力をもっている」
ザギ先生にそう言われ、ボクもびっくりだ。それは転生者特典なのだろうか? どうやら周りの人よりかなり多いらしい。蛇の目では測定できず、ボクが近づいただけで故障してしまう。
「すごいじゃない!」
近くにいたフィーネが、そう声をかけてくれる。魔力の多さは貴族が誇るべきものであって、庶民であるボクが多いのは異例中の異例でもある。
でもその影響は、また違うところでもあらわれるのであって……。
通常、魔力が多いのは貴族であって、それが貴族の権力の源泉でもある。でも、ボクがそれ以上の魔力をもつ、となったら、色々と問題もあるのだ。
そしてそれは、エミリアとの関係にも少なからず問題をおこすことになる。ボクの望まない形で……。
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