流行りに負けそうな魔王様
無頼 チャイ
流行りに飲まれて
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
ダンジョンメーカーである部下から、最高傑作ですよ! なんて言われたものだから意気揚々と玉座の間から城の入り口へ転移して、どれ、どうなったか試してやろうと、入り口に足を突っ込んだあの時を見るのは。
「我、マジで何やってるんだろ。今頃玉座で勇者と戦う時のデモンストレーションでもしてたはずなのに、こんな、こんな……」
入り口から真っすぐ玉座の間まで敷かれたカーペット。左右に置かれた甲冑の台座。ズカズカ歩いてると、向こうから白と黒の上下、そう言う模様の人型魔物とすれ違った。
「あ、鞄持ってない。異常だ」
反転し城の出口である扉を開けたら、7、と刻まれたカーペットが引かれてた。
「なんで、なんで魔王城を◯番出口風にしちゃうかな!? 我この光景10回目よ!? マジ何やってくれるかな我の部下は!」
我が城なのに他所の城並に観察し、神経を研ぎ澄まして異常を探した。
異常がなければ先に進んで、あれば引き返す。
単純なのに全然玉座にたどり着けなかった。
「いやさ! 勇者を簡単に侵入出来ないようにとは言ったよ! でも城の主が玉座に帰れないって問題じゃない!? いやさ、我だって出来て早々説明も聞かず挑んじゃったから悪いんだけどさ、まさか流行りに乗っかって頭も魔法も使わず、神経と目を酷使するダンジョンになるなんて思わないじゃん! あぁ、我あれだ。玉座に辿り着いた勇者の目がシュパシュパしてたら普通に同情して目薬出しちゃうわ」
ズカズカと歩いていると、右手側の甲冑が手にしてるものが目に入った。
「剣、剣、拳、剣。うん、拳を握るな甲冑!」
良いね良いね迷ってるね、と言われてるようでムカムカした。もう異常なのは確かだし引き返した。
6と書かれてた。
もうあの程度見逃さないわ。
「あ、あの」
「なにまた異常〜! ってあぁー、ギミックじゃない」
「はい。あの、僕ここから先に進めなくて……」
「被害者ってこと! ここで会えるのめっちゃ嬉しい! 我こんなに部下見て安心したの初めて〜、もう10回目なんだけど、通行人役の魔物以外見なかったから寂しかったんだよ。なぁ、良ければ一緒に玉座までいかない?」
「良いんですか? 助かります!」
一人増えただけで、攻略が楽になった。我が見落としていた天井の照明に使われている蝋燭が1本消えてるとか、剣を握る鎧の手が革鎧になってるとか、まさかこんな部分にも!? みたいなところを拾って何とか進んだ。
そして、
「うおぉー! 玉座! 我の玉座! 会いたかったよ〜」
「無事たどり着けましたね」
「マジお主には感謝しかないわ。ありがとう〜もうちょっとで城を爆破するところだったよ。そうだお主、褒美やるからなんか言ってみ?」
「え?」
「え? ってお主、いやいやお主がいなかったらあのクソダンジョンからぬけだせなかったからさ。我もうちょっとで魔王の日干しになるとこだったんだよ。いいからいいから、何でも言って」
「え~と……」
もごもごしている人間風の部下が何を言うのか待っていると、頭に声が走った。
『魔王様!』
『うるさっ、なに急に』
『勇者が来ています!』
『うるさいっ! 今そんなところじゃないの。我の命の恩人に褒美をやるの! どこぞの誰かさん達は助けにも来てくれなかったじゃん! この人でなし!』
『あのダンジョンにはダンジョンメーカーから入らないよう注意を受けていましたので、我々魔物は一匹たりとも近付いておりません。また、あの通路は不思議な結界が張ってあるようで、こうして念を送ることも出来なかったのです』
『一匹たりともって、ぷふっいやいやいや! 我を助けてくれた魔物いるよ?』
『ん? そんなはずは』
「あの、決まりました」
「そうか! 申してみ」
念を切った魔王は、喜ばしい微笑み向けた。
「世界の平和を、ください」
「そうかそうか世界の平和かっては?」
「え? 何かおかしいこと言いました?」
「いや、別に、ただ変っていうか、うーん、名前聞いても、良い?」
「? 勇者です」
「そっか、勇者か……」
しばしの沈黙が我らを包む。
そして、深いため息を吐いた。
腰に手を当てると、何ともいえぬ感情で言った。
「◯番出口、やらない?」
「やりたい」
こうして、世界の運命は先送りされたのだった。
流行りに負けそうな魔王様 無頼 チャイ @186412274710
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます