第2話 どうしてこうなったのか

「とにかく、涙を拭いて・・・誰か、タオルを持ってこい。」

 デビド王国王太子マクロは、ドアの外で聞き耳を立てているだろう家臣、使用人達に大声で命じた。元聖女カイナは、まだ涙が止まらず、鼻水も流れ出している、情けない状態だった。

 聖女という存在は多いが、彼女のように国レベルで加護を与えることのできる程の聖女は稀な存在だった。その真の聖女と言える聖女がデビド王国に誕生したのが、23年前だった。赤ん坊であるから、色々な事情で直ぐに見つけられのだが、取り合えず保護され、養育ののち教育され、10歳になった時には安定して国に加護を与える聖女となった。彼女はカイナ子爵家の長女であった。兄が一人、弟妹が3人いた。このような聖女であるから、王太子との婚約が双方、子供の頃に、マクロ5歳、サイナ・カイナ2歳の時だった。関係は悪くはなかった。それが、婚約破棄に至ったのは、彼女が結婚を望まなかったからである。この点については、何回も確かめた。

「嫌っているわけではありませんが、将来の夫としてみることがどうしてもできないのです。」

とはっきり言ったのだ、マクロを前にしても。長い親しい付き合いであるから、彼にも理解はできた。

 聖女の地位から追放したのも、彼女が聖女の務めに疲れた、自由に冒険したいと言い出したから、国の聖女の地位から降ろして、自由にさせたのである。しかも、今後の生活のために、年金も彼女のためにも設けたのである。

 それが理不尽に、婚約破棄した、追放した、どこかの馬鹿女に乗り換えたとか言う事になってしまったのである。


 侍女がタオルを持って来たので、それを取り、侍女が見ている前で聖女の涙と鼻水を拭く王太子の姿へチロチロ視線を向けた侍女はしばらくすると、黙って部屋を出ていった。ドアの外で聞き耳を立てる一団の一人となっているはずだった。


 涙を拭きとり終わると、マクロはカイナを抱き起し、長椅子に座らせると、自分の執務机のところに行き、その引き出しから分厚い書類を出して、彼女の前で立ったまま開いた。

「順風満帆そのものだと思うんだがな。」

 それは、婚約破棄後の彼女の大活躍に関する報告書だった。

「え~と、最初に入った有名パーティー、朝焼けの先駆け。そこで彼女が入ったせいで追い出された聖女・・・戦う聖女が自慢だったけど、肝心な回復魔法がいまいちで・・・彼女は、ちゃんと別のパーティーに入れるようにしたし、その後、そのパーティーで彼女は能力を開花させて成功していたはず・・・。」

"どうしてそんなことまで知っている?しかも、あの女とその後も?"

「絶縁の魔王を倒した後、そのパーティーは解散。別の有力パーティー、竜巻の嵐に入り、困難で、周囲に大きな被害をもたらすダンジョンをいくつも攻略し、さらに希少魔石、聖樹の実など貴重な資材を入手して大活躍したよな・・・ここでも聖女が一人追放されたて・・・でも聖女教会にポストを与えたし・・・。」

「あ、はい?」

「それから、闇の瘴気を放つ魔獣を倒し、市の公会堂にはびこる闇の精霊とそれに憑りつかれて暗躍していたた連中を倒して都市国家ハウス共和国を、闇の樹木に国土を支配されかけていたグスト神公国で闇の樹木を葬り、それを浄化して神聖材として、その後の復興に役立てて・・・。両国から名誉最高市民、名誉準侯爵に任命されたよな・・・。それから、荒れ地を開拓して、建国した・・・2国あった、な。あと、和解させた部族があったな・・・。それから、あの魔族の国の王子と・・・。本当に大活躍だったな。」

「よ、よく、ご存じでって、あーあのベテランおっさん、おばさん冒険者も、あの賢者も、召喚術師も、あの小憎らしいエルフも、気の利かないドアーフも、横柄なオーガも、毒舌ばっかの魔族女魔導士も、乱暴なウサギ耳格闘女もみんなみんな、あなたの手先だったのー?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る