怖い話とか-覚書

むしやのこどくちゃん

立ち入り禁止

 私の友達のAちゃんの話です。怖いって言うか……なんか奇妙な話なのかもしれないんですけど、Aちゃんが大学の卒業旅行で吸収地方のとある島に遊びに行ったときの話です。


 Aちゃんは同じゼミの友達と九州地方を回る旅行をしていた時に、とある島に立ち寄って―本州からそんなに遠くないところだったらしいんですけど、お魚が美味しいっていうのと、高台から見られる景色がいいっていう以外はそんなに目新しい観光名所はないようなところだったみたいです。その島で、Aちゃんたちは夕方までその島を散策してから本州に戻る予定だったそうです。

 それで、Aちゃんたちは港でお昼ご飯を食べた後、名所になってる山の中腹にある展望台に向かったそうです。道はちょっと古いながらも整備されていて、道案内の看板もちゃんとあったそうです。他の友達とも、結構楽に行けそうだね、なんて話してたらしいです。


 なんですけど、結局Aちゃんたち道に迷っちゃったらしいんです。でも別にパニックになるでもなくて、一旦来た道を引き返そうかとなった時に、地元のおばあちゃんらしい人とすれ違ったんですって。おばあちゃんは山の方―えっと、だからAちゃんたちが進んでた方向から戻ってきた感じだったんです。で、そのおばあちゃんが、この先はナントカだから行っても意味ないで、みたいなことを言ったらしいです。ナントカ、の部分は島特有の固有名詞なのか、その場にいた誰も聞き取れなかったらしいんですけど。まあ、ともかく、この先に何かあるんだ、ということはわかっちゃって、Aちゃんたち、気になっちゃったんですって。おばあちゃんが行って帰って来られるくらいだから、そう遠くもないだろうし、って、面白いもの見たさに引き返さずに道を進むことに舌らしいんです。


 ……ええっと、ちょっと話が変わるんですけど、例えばあなたが歩道に面している何かしらの建物の入り口に【立ち入り禁止】の看板を立てるとして、表面をどちらに向けます? ああ、表面っていうのは【立ち入り禁止】って書いてある方です。―、ね、そうですよね、歩道の方に表面を向けますよね。


 それで、話を戻すんですけど、Aちゃんたちがその道を進めば進むほどに、なんというか、段々と道がボロボロになっていったんですって。道のひび割れが放置されてたり、道の端なんかは刈り取られていない植物だらけて歩きづらかったみたいです。木々も鬱蒼として来て、誰からともなくもう戻ろうか、なんて言いだしそうな雰囲気になった時、そこに辿り着いたんです。


 ―大きな交差点があったらしいです。急に視界が開けて、ホントに……大型トラックなんかが普通に行き交えそうなくらいの大きい道。Aちゃんたちが来た方向から見て前も左右も、全部封鎖されてたんですって。ポールチェーンがされてて、こんなに大きい道なのに変だね~ってなって暫く友達と見回してたら、Aちゃん、気付いたらしいです。チェーンの向こう側に、看板が立ってるって。Aちゃんの腰くらいの高さの看板で、木で作られた些末な看板が、道の向こうを向いて立っているって。―つまり、Aちゃんの側からは看板の背面だけが見えてる状態です。


 で、Aちゃんはその看板が気になったんですって。というのも、見回してみたら、残りの2つの道にも、同じような看板が同じような向き―要するに、道路の中央から見たら全部の看板が背を向けてる状態―で設置されてたみたいなんです。そりゃあ気になりますよね。それで、なんとなくチェーンを乗り越えて見るのは憚られたから、看板を覗き込むように見たんです。


「あ」


 って、なったんですって。さっきの話です。立ち入り禁止の立て看板って、入っちゃいけない場所に、背を向けて立ってるはずでしょう? Aちゃんが覗き込んだその看板には【立入を禁ず】って書いてたらしいです。きっと他の看板にも同じように描かれてたんじゃないでしょうか。でもAちゃんは怖くなっちゃって、それ以上確認しなかったらしいですけど。ともかく、それからAちゃんは友達には詳細は伝えずに、とにかく山を降りようって言って、そのまま島を後にしたらしいです。


 Aちゃん言ってました、「立入禁止になってるのは、だったんだ」って。

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