3. そういうクイズ的なの、あったよなぁ



 引き続き、食堂。


「先パァイ、なにそれ、浮いてるやつ! カメ? ウミガメ? もしかして、ウミガメのスープなの?」

 ミニスカのギャルギャルした一年生が、鳩の餌ほどのサイズ感のパンを片手に、隣の先輩らしき無精髭の男に、そう話しかけた。


 彼女の指摘する通り、確かに透き通った汁には、釜茹でされたスッポンが、一匹丸ごと、浮いている。


「ああ、これ、知らない?」

 無精髭の先輩は、スッポンの顔面をレンゲでつつきながら、そう答える。


「そんなグロいの、知らないですよ!」

「そうかー。まぁでも、入学して半年じゃ、知らなくても当然か。これはね、グレート工科大建築学科名物、スッポンスープ」

「うそ! マジっすか? てかなんで学食にスッポン!? 高級料亭でもあるまいし!」

「あはは。まぁ、当然の反応、だよね。なら、院生でもないくせにありとあらゆる裏技を駆使して在学年数十年越えのこの俺が、スッポンスープ誕生の経緯を、説明してあげよう!」

「マジっすか? 割と、興味あるかも」


 無精髭の先輩は、斜め上の虚空を見上げ、回想する。


「実はね、十年前、食う場所と言えばキャンパス内の食堂のみ、だったこの建築学科キャンパスに、突如として、若者の憧れの的、〈アドレナバーガー〉が現れたんだ。すると当然、パイの奪い合いが始まり、古き良き食堂は惨敗、学生たちはお昼時になると〈アドレナバーガー〉へ吸い込まれていくようになり、寂れてしまったんだ。食堂側は、『こうなったらヤケクソだ! ウチとアドレナじゃあ月とスッポン!』と言わんばかりに、自虐的販促を試みたところ、これが大ウケ。以降毎年恒例の季節限定メニューになっている、というわけさ」

「へぇー、そうなんだ。あ、先パァイ、この後、ちょっと購買部に寄ってもいいですか?」

「ああ、それくらい、もちろん付き合うよ。ちなみに、何が必要なの?」


「貞操t——じゃなくて、安全帯です。フルハーネス型のやつ。午後にある下仁田しもにた教授の〈とび職実技〉って授業で、持参するように言われてるんです」

 と、ギャルギャルした一年生は、絶対にミニスカギャルが言わないセリフランキング第一位を、自然体でブッ放す。


「なるほど、それなら俺も、アドバイスできるかも。イチオシのやつがあるんだ」

「マジっすか! それ超ありがたいかも! あ、そのスッポンスープも、一口もらえたりします?」

「いいよ。はい、どうぞ」


 二人は、スッポンスープを仲良く平らげ……


 食堂に併設の購買部へ向かった。

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