第22話

まずは発声練習。早口言葉。

矢野は寧々にもう一度基礎からやり直させた。

次にさせられたのは場面を想定しての表情の練習。台詞は一切なしで演技のみで表現しなければならなかった。

それが一ヶ月程続いた。

矢野は仕事が忙しいので夜中になる事も多かった。

ある日、学校から帰った後いつも通りスタジオに入った。

そこには矢野の代わりに須田絵里香がいた。

絵里香は自分のライバルの役を寧々に頼んだ。

寧々は台本を片手に絵里香の相手をしていたのだが、途中で詰まってしまった。

「もういいわ。自分の演じる役を分かっていないのは見苦しいわ」

寧々は俯いてしまった。

「オーディションでは直ぐに覚えて演じなければならない。誰も助けてくれないの。大事なのは自分の引き出しをどれだけ持っているかと言う事よ」

寧々は真剣な表情で絵里香を見ている。

「私も矢野ちゃんもオーディションを受けまくったわ。そうして役を勝ち取ったの」

「いっちゃん……父がオーディションを受けていた事は知っています。でも絵里香さんもそうだったとは」

「オーディションなしで向こうから仕事が来る人なんてほんの一部の人じゃないかしら」

「そうなんですか…… 」

「矢野ちゃんが9歳の時に大河の子役を演じたのを知ってる?」

「いいえ」

「あれだって2000人以上の人達の中を勝ち上がって来た役なの。そうやって役を勝ち取って行ったのよ」

寧々は何も言わなかったが、絵里香は話を続けた。

「あなたはそのスタートラインに立ったのね。どんな女優になりたいの?」

「はい。私は玖賀真理子のような女優になります」

寧々はキッパリ言い切った。

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