第21話

矢野は澤山映画に何回も出演していた。澤山監督の映画はテーマがはっきりしていてどれも重厚なものだった。

役者達もまるでこの役になるためにそこに存在していた。


寧々は翌日、学校まで矢野に送って貰った。車の助手席で寧々は言った。

「あのDVD全部見たら、いっちゃん、私に演技指導して下さい」

「本気なんだな?」

「はい」

寧々の顔は凛としていた。

「分かった。俺の指導は厳しいぞ。娘だからといって手加減はなしだからな」


主演映画の打ち上げがあった。

主役の2人を始め、出演者の人達に未成年者が多かったので、夕方の6時から始まった。

寧々と高瀬涼の2人と監督は壇上に上がり、それぞれ挨拶をした。

「お疲れ様でした」

寧々と涼はワインの代わりにアップルジュースで乾杯をした。

「次の仕事は?」

「CMと雑誌の撮影。高瀬さんは?」

「ドラマとCM。あれ?ドラマの話なかった

の?」

「あったよ。でも断った。澤山監督のオーディションを受けるから」

「澤山監督?無茶だよ。それは。それよりもドラマの仕事を受けた方がいいよ」

涼は本気で心配していた。

「ありがとう。でももう決めたの」

寧々はキッパリと言った。

「君が好きなんだ」

涼からの突然の告白を聞いて、寧々は頰を染めた。

「嬉しい。私も…… 」

「だったら付き合わないか?」

「事務所が恋愛禁止だし、今はオーディションの事だけ考えたいの」

寧々の決意はもう揺らがなかった。

「恋愛禁止はうちの事務所もそうだけど……

俺、待ってるから」

「ありがとう…… 」

寧々の瞳から涙が頰を伝って落ちた。

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