第6話

山城の話を聞いて、矢野は寧々に表情の特訓をさせた。

「人には色んな表情がある。笑った顔、泣いた顔、怒った顔、おどけた顔

真剣な顔…… 言い出したらキリがない」

「じゃあいっちゃんは今ここで泣けって言われたら泣けるの?」

「どう言う風に泣けばいいんだ?」

矢野は真剣である。

「どう言うって…… 」

「泣き方でも色々ある。どう言う事で?」

「大好きだった犬が死んだの」

矢野はいきなり着ていたセーターを脱いで丸めると愛しそうに何度もセーターを撫でている。

台詞は一言もない。

だが、寧々には段々とセーターが白い犬に見えてきた。

そして愛しさと哀しみの入り混じった眼差し…… 遂には溜めていた涙が溢れ落ちた。

寧々は釘付けになっていた。

「これでいいか?」

寧々は咄嗟に答える事が出来なかった。

これが演技するって事なんだ……

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