#KAC20254　繰り返すお部屋の夢

あの夢を見たのは、これで９回目だった。

最初は幼稚園の時　

いじわるばかりするケンちゃんがきらいだった

今になれば　私の事好きだった？　とも思うけど

その時はとにかく　嫌だった

なんにもない小さな部屋の床に紙を広げて

幼稚園児のワタシは絵を描いている　ほんと？の私は　

天井のあたりに浮かんでそれを見下ろしている

紙一杯に　いじめっ子のケンちゃんを描いてから

ワタシはそれを　消しゴムで消した

その翌日　ケンちゃんはおうちの都合で急に幼稚園をやめた

次に同じ夢を見たのは小学生の時

部屋にいるのは幼稚園児のワタシ　床に置いた紙に描いているのは

とってもおっかない担任の先生の顔

天井に浮かんだ小学生の私は　先生の顔が消されるのを見ていた

先生は声の出なくなる病気にかかって　担任が変わった

3回目は　中学の時

バレー部のレギュラーを争っていたあかねを描いて消した

あかねは骨折して　部をやめた

罪悪感があった　夢は自由に見られる訳ではないのだけれど

家の二階から見える　中学の体育館の青い屋根が　

自分を非難しているようで　怖くなっていった

４回目　ワタシは町の風景を描いて　消していた…

体育館は焼失して　全く違う校舎が建った

高校でもバレーを続けていた　

私のチームは県大会の準決勝に残った　

対戦相手は　天才エースのワンマンチームだった

５回目　ワタシはエースの顔を描いて　頭から消し始めた

天井に浮かんだまま　私は必死で止めようとしたが声が出ない

あきらめちゃいけない　私は全力で目を覚ました

翌日　エースは試合を休み　私のチームは快勝した

どうやら　朝起きると　髪と眉がすべて抜け落ちていて

彼女はショックのあまり　試合どころではなかったそうだ

もちろん　我々は決勝戦では敗退した　　　ほっとした

あの部屋の夢はしばらく見なかったが　

一心不乱に絵を描いて消す　幼稚園児のワタシの背中は

目に焼き付いていて　怖かった

人を恨んだり　悪く思ったりするのはよそうと努力したせいか

大学では　良い友達に恵まれて　楽しい日々だった

試験直前になって突然　担当教授の都合で試験期日の前倒しが

発表になった　この単位を落としたら留年もあり得る

困っているのは私だけではない

６回目　あの部屋の夢を見た

人助けだもの　止めないから　お願い

ワタシは　試験の行われる高層新校舎を描いて　建物の一部を消した

翌日　新校舎の設計不備が明らかになり　試験会場準備の為

試験の日程は　全体に１０日間程遅れる事になった　　やった

就職してすぐ　私は一人の先輩社員に恋をした

「青木さんが好きなの」同期の香織に打ち明けた　すると

それを知っていながら　いや知ったから　香織は青木さんに近づき

〝可愛い後輩〟のポジションを取り…　盗りやがった

「来週　青木先輩にテニスを教えてもらうの　スコート短くて恥ずかしいな」

しゃあしゃあと香織が話していたその夜　私は

７回目の夢を見た

幼稚園児の絵でも香織が可愛らしかったのさえ　悔しかった

香織は足を捻挫した　だが　大げさな松葉づえ姿の香織の出社に

バックを持って寄り添っていたのは　青木さんだった

怒りに目がくらんだ

８回目　アタシが香織を完全に消すのを　私は止めなかった

香織は松葉づえを引っ掛けて　転落し　　　死んだ

１年後　私は意を決して　青木さんに告白した

「香織はずっと　君が怖いと言っていたんだよ　

　二人でいると　君が天井に浮かんで見ているとか　

　寝ていると首をしめに来るとか…」

「そんな」　

「僕は取り合わなかった　君と付き合った事がある訳でもない

　そんな事はあり得ないと言ってね

　足を怪我してからはもっと怖がっていた　そしてとうとう…

　香織は僕の見ている前で転落した　そこに君はいなかった　　

　でも　救急車の中で香織はずっと君の名前をつぶやいていたんだ」

「何もしていません　そんなのひどいです」

「分かっている　だが僕は…

　地球に女性が君一人になったとしても　君とは付き合えない」

あの夢を見たのは、これで９回目だった。

私は天井に浮かんで　虚無の目でワタシを見下ろしていた

ワタシは　せっせと紙に描いた地球を消していた