13階段……登りきらないっ!!
タカナシ
第1話
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
俺は毎回、階段を一歩登る夢を見る。
階段は全部で13段あるように見える。無機質な石を切り出して作ったような階段だ。
一歩。一歩と日を追うごとにその階段の残りが少なくなる。
「そろそろ、時間がないな……」
このあとどうなるのかは想像に難くないだろう。
幽霊が出る事故物件のアパートを格安で借りていたのだが、ここら辺が潮時だろう。俺は身辺の整理を始める。
ぶぶ~~と煩い音を上げている冷蔵庫は前の住民のものらしく、まだまだ現役で俺も重宝していた。前の住民は不動産が言うには急遽、「出るんだっ!! ここにいたら死んでしまう!!」と言って家電から何から置いて出て行ったそうだ。正直あまり金を使いたくない俺からすれば感謝しかない。
中身はそのままに出来ないので、今日、明日くらいで使い切りたい。
そんなことを考えていると、
「あの~、あんた、マジでなんなんだよ」
肉声ではありえないような、エコーがかったぼやけた声が不意に耳元で囁かれる。
「うわっ! びっくりした」
振り返ると、そこには青白い顔のサラリーマン。口から血を流しており、どことなく透けて見える様相から幽霊だと直感的に理解する。
「え、なんですか? 呪い殺すまであと4日ありますよね」
「いや、そうなんだけど、あんた、これで9回目だろっ! なんで10日近く住んだら解約して、また次の月に入居するんだよっ!! それを9回も繰り返しやがって!!」
「いや、解約したら夢での忠告やめてくれるし、試しにまた住んだら1段目からだし、これはイケるって思いまして」
「イケるっ! じゃないよっ! こちとら9か月住んでも大丈夫みたいになってるだろっ!! なんだ、こっちは13か月で殺さないといけないのか? 月1で夢みせて階段のぼらせる!? 悠長すぎるし、こっちももうそこまで住むなら良いよっ! ってなるくらいだわっ!!」
「いまのを要約すると、13か月まではセーフなルールに改変してくれるってことですか? それならありがたいです。頻繁に引っ越すのも大変なんですよね」
「違うわっ!! ちゃんと13日で殺すよ! 殺すけど、そもそもこっちとしては出ていって欲しいわけ。で、戻ってこないで欲しいのよ。ここはこっちの家なのよ!」
「仕方ないですね。月1万円ですからね。お互い持ち家という訳ではないアパートですし、シェアハウスってことでどうです?」
「それなら仕方ないなぁ、シェアハウスになったっと思えばいいかぁ。とはならないんだよっ! だいたい、11日くらいでいなくなるけど、その間どうしてんだよ」
「あ~、他の期間ですか。もちろん、他の事故物件のアパートで11日間くらしてますよ。いや、なんか皆さん都合良く13日で殺しに来てくれるので渡り歩けるんですよね。家具もそのままで良いみたいだし、消耗品だけ片付ければ不動産も何も言わないですし。むしろ定期的に入居してくれて助かっているみたいですよ。俺がいない間に住んで死んだ人の報告義務も消せるみたいですし」
不可解な死に方をした部屋への次の入居者には伝える義務があるそうなのだが、その間に1人入れば報告義務はなく貸し出せるらしい。
幽霊は青白い顔をさらに蒼白にする。
「……え? ここ以外でもそんなことしてんの」
「まぁ、3か所をぐるぐると。絶対に13日で空くので住めなくなることもないですし」
「えぇ、こわっ! それをにこやかにいうそっちが幽霊より怖いわっ!」
「そんなことないですよ。人を殺したことないですし、まぁ、話を戻しましょう。で、住むところですけど、他のとこも良いんですけど、でも、ここが一番住み心地いいんですよねぇ。駅に近いし、部屋も綺麗。日当たりも良いし。ここが1万ならずっと住みたいくらいなんですよね。13日じゃなくて、13か月に一回になればいいんですけど」
「ほんと? まぁ、こっちも住み心地は一番だと思っていたけどねぇ、じゃあ、そこまで言うなら13か月にしようかな」
「ありがとうございます!!」
これでもう一か所も13か月に交渉できたし、もう少し引っ越しが楽になるな。
あ、事故物件で同じようにしてる人に連絡とって2人でぐるぐる回せばかなり楽に済めるぞ。これで月1万は完全にもうけたぜ!
この後は、13年に1回に交渉できるよう頑張ろうっ!!
13階段……登りきらないっ!! タカナシ @takanashi30
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます