このコスプレは求愛です

降矢あめ

文化祭


 コスプレ。それは、自分がなりたいものに扮装する行為。



 某高校、文化祭当日。

 浮かれている生徒、浮かれている教室、浮かれている教師。

「先生、まだ入ってきちゃだめですよ」

 パタン。追い出される教師。

「これは、かなり」

「うん、いい。いいよ葉月」

 鏡に映るいつもとは違う自分。

「今日だけ、でも」

 二年二組、コスプレ写真館。開館です。



 二年一組、迷路。

 ただいまの受付、望月と西。

「望月、行くだろ」

「どこに」

「二組のコスプレ写真館」

「コスプレ、ね」

「アニメ好きだろ。なんだっけ、あのアオちゃん?」

「いいか、西。二次元というのは二次元だからいいのであって、三次元に出現したとなればそれはもう二次元では」

「行かないのか」

「……行く」

「望月と西、そろそろ交代」

「はいよ」

「どっかいいとこあったか?」

「三年生の教室はやっぱり面白いよ。クイズとかお化け屋敷とかクオリティー高くてさ。あとおすすめは二組のコスプレ写真館。青木葉月が」

「万田、あとはよろしく」

「お、うん?」

「西、行くんだろコスプレ写真館。仕方ない、俺もついて行くよ」

「……」


「ようこそコスプレ写真館へ。こちらでは用意された衣装に着替えて撮影したり、コスプレした二組の生徒と一緒に撮影ができまーす」

「よっ」

「望月くん、入ってくでしょ」

「まだ何も言ってないんだけど」

「まあまあ、西くんも」

「あ、青木」

「西くん、来てくれたんだ」

「俺もいるんだが」

「その衣装、似合ってる」

「ありがとう」

「いやはや、人気者も大変ですな~」

「たしか望月、このキャラクター好きだったよな」

「へー、それはそれは知りませんでした。で、どうです?この衣装」

「そうだな」

「返事になってないんですけど」

「さっき言ってたよな。二次元は二次元だからいいとか、なんとか」

「……」

「葉月ー、そろそろ休憩だって」

「ちょうどよかった、俺たちこれからたこ焼き買いに行くけど一緒に行く?奢るよ、望月が」

「なんで俺が」

「やったー。ありがとうございます、望月くん」


「人から奢ってもらうたこ焼きは格別ですな」

「おいちょっと、もう二個食べただろ」

「青木、俺の分食べていいよ。ちょっと飲み物買ってくる」

「……」

「どうしてそのコスプレなんだよ」

「別にいいでしょ」

「ほかにももっと似合うのが」

「さっきからどこ見てるの。少しはこっち見てよ」

「見てるだろ」

「いや、やっぱり見ないで」

「どっちだよ」

「私は二次元じゃない」

「当然だろ。人間なんだから」

「幼なじみでもない」

「俺に幼なじみはいないよ」

「アオちゃんじゃない」

「アオちゃんは、一人だけだ」

「アオちゃんになりたい」

「……葉月は、葉月だよ」

「でも、それじゃ」

「いいんだよ、葉月のままで。俺は、それがいい」


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