第31話 王都脱出とわずかな昔話

 七原が言うには、「冒険者ギルドを見たいのは社会勉強として」ということだが、それは恐らく後ろに控えている護衛騎士を気にしての発言で、実際は逃げ出した後のことを考えているのだろう。


 そんな推測が出来たので、ギルドに到着したところで、

「折角だから、君達も登録してみたら?」

 と声をかけてみた。


 身分証があるのと無いのとでは、今後の便利さが大きく違う。


 ついでに「格好いいニックネームで作るのもいいぞ」と教えておく。

 逃亡の時には必要だろ、偽名は。


 と言うことで、ここは冒険者ギルドの王都第一支部。

 第一中央通りを挟んで、教会のほぼ向かいにあり、左手にあの武具店が見える。


 ギルドを統括する王都中央本部ではなく、あくまでも王都で活動する冒険者の為の窓口で、グリンウェルに比べると、こぢんまりしているイメージだ。


 ここは土地代も高そうだしな。


 俺達は騎士を連れているし、グレイ達もガタイが良いので、冒険者に変に絡まれる事無く、全員のギルド登録が終わると、俺達は外に出た。


 さて、次はどう王都を出るかだが……。


 ギルド職員によると、大きな正門は物流の大動脈と言うこともあって、一日を通してかなり混み合うと言うことだ。

 その為冒険者の多くは、ここから第三大通りに出て、正門の並びにある北門を使うとのこと。

 これは王都に居住している者で無ければ使えないので、比較的スムーズに出ることが可能だそうだ。


 冒険者という体で抜け出すには、都合がいいだろう。


 グレイ達も納得してくれたので、そちらから行くことにする。


 まあ、道案内はグレイに任せるんだけど。


 そんなこんなでグレイの後ろについて歩く事になったオレは、周囲を警戒する以外にすることが無い。


 手持ち無沙汰なので、肩に乗った美夜を撫でていると、三倉が声をかけてきた。


「お兄さんは、王都の人じゃなかったんですね」


 顔を覗き込むように此方を見るが、まあ身長差もあるからそうなるか。


「ああ。仕事でこっちに来てるけど、いつもは辺境に引き籠もってるかな」


「なる程……冒険者になると、色んな所に行けるんですか?」


「いや。拠点を決めると、そこに籠もる事が多いかな。護衛やお使い、遠征みたいな依頼があれば別だけどな」


 「そおなんですか~」と相槌を打ちながら、だんだんと距離をつめてくる三倉との間に、セルディが割り込むように入ってきた。


わたくしは今は王都住まいですので、今回師匠に仕事を振っていただいたお父様には感謝ですね」


 そのセルディに三倉は後ずさり、少し距離を取った。


「その口振り……まさか貴族様!」


「そうです。そして師匠は私の大切な方ですので、お気をつけくださいね♪」


 そうセルディが笑顔で告げると、三倉は体を引いてセルディを挟んで隣に並んだ。


「はーい。でも大切な人か……ナリちゃんの大切な人も見つかるといいんだけど」


 その声に少し先行して五輪と並んでいる七原が振り向く。


「それ以前に、私達の問題が……ね」と、その顔は何とも渋い顔の笑顔だった。


「だよね~」

 と三倉が笑う。


「あら、貴方にも誰か大切な方がいらしたのですか?」


 本当に興味があるのか、セルディが話に乗ってきた。


「ええ。まあ、彼からは友達程度の関係と思われてたと思うんですけど、突然行方不明になっちゃって……そうしたら、ああ彼は大切だったんだなあって、後から思ってしまって……」


「そうでしたか……」


 とセルディは拙い事を訊いてしまったかなと表情を曇らせるが、七原の次の言葉は正しく爆弾だった。


「まさかと思うけど、彼もコッチに来てたりしないかな。本当に突然いなくなったの。

 久遠くおんまことっていうんだけど、知りませんか?」


 その言葉を聞いた瞬間、セルディと美夜の視線がオレを突き刺した。

 痛い。痛すぎる!


 ってか、フルネーム言うなよ。


 セルディはオレの耳元に唇を寄せると、

「師匠の名前、“クウォン・マークオッド”でしたね。偶然にしては似すぎてませんか?」


「黙秘権を行使するが……誤魔化してくれると助かる」


「まあ、余計な狐が増えないようにします」


「助かるよ」


 狐はよく分からんが……と、安心したのもつかの間。


「クウォン殿!」

 とグレイが声を上げた。


 七原達は……突然の声に驚いただけで、名前には気がつかなかったようだ。

 一安心。


 ……ではないか。


 グレイの指差す先には王都の巡回騎士。

 それが十人程で此方に向かっているのが見えた。


 仲間の騎士が、

「ちっ、別の用件でコッチに来ている……なんてことは、雰囲気的に無さそうだな。グレイどうする?」

 とグレイに声をかける。


 ゼラの表情が不安に曇った。

 彼女もグレイを見る。


「巡回騎士と事を構えるのは拙い」

 というのがグレイの判断だったので、


「じゃあ、ひとまずはコッチだ! 美夜!」


 オレはグレイ達を少し細くなった脇道へ誘うと、美夜に声をかけた。


 意図を理解した美夜は肩からジャンプすると、そのまま壁を走って頭上で止まった。


「教会はどっちだ?」

 と訊ねれば、例のごとく尻尾が矢印になって前方を指している。


 その様子に「なんだアレは?」と驚くグレイ達だが、解説は無理。

 逃げるのが先だ。


 と言うことで、


「では、君達とはここまでだ」

 と勇者達に別れを告げる。


「えっ、どういうこと?」


 と七原達は疑問に思ったろうが、この答えは簡単だ。


「身なりから察するに、君達のツレは城の騎士達だろ?

 彼等から逃げる必要は無い」


 そう告げれば納得したのか。

 護衛騎士の二人は、七原と三倉の肩に手をかけると脇道の入り口から距離を取った。

 五輪その流れに従う。


「そう言えば、君達はオレ達を捕まえなくて良いのか?」

 と護衛騎士に声をかけると、


「我々の任務は、こちらの三名の安全確保です」

 と答えが帰ってきた。

「貴方方に勝てるとも思えませんし」と付け加えて。


 そういや彼等は昨日のアレを見ていたな。

 任務に忠実でいい。

 では、やりますか! 

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