第1章・聖女と生贄
第19話 王都と依頼
事件解決から二週間。何があったかと言えば、特にはない。
強いて言えばフィナが退院して、そのお祝いをしたくらいだ。
とは言ってもまだ本調子ではないため、ギルドには出勤していないし……。
「まあ、何かあったのかと言えば、今まさにこの現状だな」
今現在、オレ=クウォン・マークオッドが握る手綱の先には二頭の白馬がいて、相棒の黒猫=
オレが乗るのは自分だけだと言い張るクセに、馬車を引くのは別なんだそうだ。
オレが今操っているのは、辺境伯家から貸し出された豪華な馬車。
車内は贅を尽くした快適空間で、現在はギルドのサブマスターであるヨウカが一人惰眠を貪っている。
尚、オレのアイディアが採用された馬車は、サスペンションが効いていて揺れが少ない上、シートは倒してフルフラットになる仕様だ。
普段が激務だから、まあいいんだが……。
春が近いせいか、緑が多い街道のあちこちに小さな花が咲いている。
これがピクニックなら、どんなに気楽なことか。
王都へ向かう、人間二人と猫一匹の片道九日の旅。
その間働いてるのがオレ一人ってのは、どうかと思うんだが?
王国西の最果てである辺境伯領から、中央やや東の王都へ向かう途中で軽く北上すると、国の中心部にある聖都があるのだが今回はパスだ。
どうせ行っても聖女は深い眠りの中だし、今回は急ぎ旅。なので様子を窺う時間も無い。
その為、潰さない程度にだが馬には頑張ってもらっている。
王都に着く頃にはあの【勇者召喚】から20日は経過している計算になるのだが、その間に王都で何が起きているのか、国からの発表がないので、何が起きているのかいないのか見当がつかない。
ゲームのシナリオがはじまってるとはいえ、実はオレはゲームをやっていないので何がなにやらわからないのが現状だったりするし。
やりこんだ
いや、あっちでまだ続けてたら新情報があるかも。
こっちも辺境伯やギルマス達も、詳細な情報を得られないまま……なので、
「あいつら、無事だといいけど」
などと、ちょっと不安になったりする。
この旅の目的は、例の事件についての情報をまとめる為、王国内のギルド支部を集めた会議にヨウカが出席すること。
……という『ついで』のもと、現在王都の学園に通っているメイフィス辺境伯家の御子息&御令嬢の安否確認と、場合によっては辺境伯領へ戻るための護衛が主な任務となっている。
遠く王都の方角へ目を向ければ、「大丈夫ですよ」と言いたげに尻尾で足を軽く叩いてきた。
まあ、貴族の割には辺境慣れして神経がぶっ太いあいつらなら、まあ何とかやっているだろう。
王都は魔族が住む北の山脈地帯を、睨むように設計されている。
そして正門がある北側の城壁が高く、東西は日光を取り入れ易いよう若干低くされている。
その佇まいから、如何に永きに渡り魔族と戦いを繰り広げられているかが想像できる。
まあ、王都がここに出来た理由と魔族誕生が密接に関係している以上、歴史上の魔族の侵攻は仕方ないっちゃあそうなんだが。
とまあ、そんなこんなで王都に到着。
正門には多くの馬車が行列を作っているが、オレたちは辺境伯の馬車と書状のお陰で、貴族用入場門である西門の検問を難なく通過。
分厚い壁を抜けると、グリンウェルとは比べ物にならない賑やかさに驚かされた。
今は午後を少し回った時間で、ランチタイムの真っ只中ということもあるのだろう。
屋台や飲食店の呼び込みやら、宿屋の客引きやらでお祭り騒ぎだ。
その騒々しさに、ヨウカが片耳を押さえながら口をオレの耳に近づけてきた。
「この西大通りを少し行くと、第二中央通りに出るわ。教会の大聖堂が正面右手に見えるから分かる筈よ。
そしたら右折して頂戴」
どうやらその先に、ギルドの王都中央本部があるらしい。
因みに王都の動脈となる、南北に伸びる中央通りは三本あり、真ん中が第一中央通り。
いちばん大きな通りだが、軍関係が主に使う為、商業にはあまり向いていない。
その代わりに商業施設が発展しているのが、その左右に並行して通っている第二大通りと第三大通りだ。
オレも一時は王都にいた……とは言っても、まったく外出した事がないので土地勘は一ミリも無い。
なので、一度ギルドに寄って指定された宿を探さなければならない。
いやその前にこの馬車を、辺境伯のタウンハウスに返さないといかんのか?
その場所もよく分からないんだが……。
そんな感じで到着初日から、色々やらなきゃならんが仕方が無い。
仕事で来てるんだし。
ただまあ、そうは言っても腹は減る。
「ランチタイムかぁ。
ここらで食っておかないと、食いそびれる可能性が高いな」
そんなオレの呟きを聞いたヨウカが、ギルドの食堂でもいいが、教会裏手に信者向けの安くて美味い定食屋があると教えてくれた。
馬車も短時間ならギルドで預かってくれるとのことなので、休憩がてら行ってみることにする。
……などと予定外のことをすると、大概厄介事に巻き込まれるんだよな、コレが!
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