第14話
私はこの先で庵を結んでいること、そこで原始生活を営んでいること、何か不便があった時は、近くに以前私達家族が住んでいた家があり、今は売ってしまって違う家族が住んでいるのだが、その人達に助けてもらっていることなどを話した。すると彼女はこう言った。
「あっ、それ私の家族です」
私は彼女と一緒に彼女の家を訪れ、大いなる歓待を受けた。
たまに外食をとりまぜているのだが、このところ手元不如意を理由に狩猟・採集生活が続いており、専ら野草、鴨などで飢えを凌いでいた関係上、少々栄養のバランスが崩れていたのであるが、テーブルの上に並べられた刺身、串カツ、鰻、麦酒、白米、りんごゼリー等に大いに舌鼓を打ち、またお風呂まで頂戴して、以前自分が住んでいた家ということもあって大変にリラックスし、まさに極楽浄土の気分であった。
さて、じゃあそろそろ、お二階へ上がって彼女とさっきの続きをしっぽりと…と思っていたところへさして、彼女の父親がただならぬ真剣な顔をして話し始めた。話はこうだ。
最近、この家の裏の空き地に、赤いリボンをつけた、一見「不思議の国のアリス」風の少女が住みついて羊や馬を放牧している。なんとかならないだろうか、ということだ。確かに、羊や馬が鳴いてうるさい、悪臭がする、といった程度のことであれば大して問題ではない。しかし実は、この空き地は、以前はこの家の敷地内にあり、近年区画整理されて分離したのであるが、その一帯には、戦中の不発弾が埋まっており、羊や馬が駆けまわることで爆発するのではないか、ということを彼女の父親は心配しているのである。
確かに私も幼少の頃から、不発弾の存在など忘れてしまうくらい何事もなかった訳だが、羊や馬が相手となると、そう大船に乗った気持でもいられない。しかしまぁ、明日でいいじゃないか、その話は、今はお二階でしっぽりと…
ふと台所に目をやると、彼女が憂いに潤んだ瞳でこちらを見ている。
「しかしウチダ君、大丈夫だろうか?」
「しかしオトウサン、大丈夫じゃないですかねぇ」
「しかし実際ウチダ君、大丈夫だろうか!?」
「しかし実際オトウサン、大丈夫じゃないですかねぇ!」
台所では、彼女が心配そうにこちらを見つめている。
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