8/8(執筆者:marone)
「わぁ…! きれい!」
ちょうど人が掃けた後だったのだろう。目の前に広がる壮大な景色を二人占めすることができた。
温泉から湧き上がる湯気と山々に囲まれた古風な街並みは、まるで別の世界に来てしまったのではないかと錯覚するくらい神秘的であった。
「亜希のおばあちゃんもこの景色を見たんだね。すごくきれい」
「うん。ほんと、何度も見たくなるくらいきれいな景色。おばあちゃんはもしかしたらこの景色を見てほしくて私に手紙を書いたのかな、なんてね。」
しばらくきれいな景色を眺めた後、「銀河鉄道郵便」について女将さんに聞くことにした。
「あら、いらっしゃい。銀河鉄道郵便にご依頼かしら。ちょっと待ってね、紙持ってくるから」
そう言って女将さんは一枚の紙を差し出す。その紙には宛名と配送日のほかに、投函理由を書くスペースがあった。
「あ、そうそう。そこの投函理由のところは書かなくても大丈夫よ。昔来たお客さんが書きたいって言ってたから設けたスペースなの。なんでも、未来にここを訪ねる孫がくるかもしれないんですって。その時に答え合わせができるようにって言ってたわ」
「それって、もしかして小鳥遊って人じゃないですか?小鳥に遊ぶ、で小鳥遊。」
すがるような気持ちで聞いてみる。もしそれがおばあちゃんなのだとしたら、その理由が見られたらこの長旅の目的は達成される。長いように感じられる一瞬の跡、女将さんは一枚の紙を差し出した。
「あら、よく知ってるわね。これがもらったその紙よ。ただ、答え合わせだから、ただ見せるだけではダメだって言われててね。謎が解けたと私が判断したら答えの手紙を渡してって言われてるのよ。だから聞かせてちょうだい?あなたたちの答えを」
「おばあちゃんが十二年越しにお手紙をくれた理由、それは————」
話し終えるころには時計の長針が一周していた。あたらしく注いでくれたお茶で乾いたのどを潤す。
長話になったにもかかわらず話を聞いてくれた女将さんは、一度目を閉じた後、私たちの目を見て微笑んだ。
「おめでとう。正解よ」
そう言って一枚の手紙を差し出す。そこには「亜希へ」と書かれた便箋が入っている。
おめでとう。これは私があなたに作った最後のクイズよ。たのしんでくれたかしら?
このクイズを解くために、きっといろいろなところに行ったんじゃないかしら? 私が見た思い出を、私のたからものを、少しでもあなたに見てほしかったのよ。
この旅はどうだった?素敵な思い出になったかしら。これは私からの最後のプレゼント。一足先に旅立ってしまった私からの、思い出のおすそ分け。
いつもクイズを解いてくれてありがとう。わたしはずっと、空からあなたのことを見守ってるわ。こんどは亜希の思い出話、たくさん聞かせてちょうだいね
気付くと女将さんはもういなくなっていた。目を赤らめた俊と一緒に、手紙を封筒に戻す。
「亜希のおばあちゃんは、やっぱり素敵な人だったんだね」
「……うん! おばあちゃんからのプレゼント、一生大事にする」
「よし、じゃあ僕たちもこの思い出を未来に残そうよ!」
俊はカバンから便箋を取り出す。1枚ずつ書いた便箋を封筒にしまい、女将さんのいるフロントへと向かう。
「すみません、銀河鉄道郵便にこれをおねがいしていいですか?」
***
亜希たちが旅館に向かった後のこと。
「あら、そういえば空き缶と一緒に箱に入ってた手紙を渡しそびれちゃったわね。でも、いったい何が書いてあるのかしら」
そう言って亜希のおばさんは手紙を開ける。きれいな花柄の便せんに記された言葉を見て微笑んだ。
亜希へ
いつも素敵なクイズをありがとう。この思い出は、私たちにとっての一生のたからものよ。
亜希がくれたお手紙たちは、思い出と一緒に天国にもっていかせてもらうわね。
<了>
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