差出人を探せ
屋敷に戻った
夢に影響を与えるような呪いは強い。この場合、呪いの根源を取り除くことが最も有効なのだという。
そのためにも差出人が誰なのか知ることが最善だと、情侑は言った。その上で、文が拾われる頃には、差出人が屋敷を去っていた可能性があるため、それを調べるようにと。また、体調を崩している者が身近にいないかも調べてほしいと。
そこで、立成は、この屋敷を仕切る老家臣の部屋を訪れた。そもそも、文を持ってきたのがこの家臣だ。
「これは立成様、お帰りになりましたか。あの文のことは何かわかりましたかな」
「その件で聞きたいことがあってな。
「特に聞いてはおりませぬ」
「では、この屋敷に関わる者の中で、調子の悪い者に心当たりはいないか」
立成の問いに「ふむ」と、直隆は腕を組む。
「そういえば、中田殿のご子息が先月、化け物の戦いに赴いていたようなのですが」
「
「いえ。剣の腕もそれなりだと聞き及びます。実際、無傷で戦いから帰ったと。しかし、その後、雅殿の調子が優れぬようだ、と中田殿が話しておりました。数日前のことでしたか」
「雅殿が、この屋敷に入ろうとしても咎められることはないよな?」
「
「ありがとう直隆、助かったぞ」
立ち上がろうとする立成を、直隆は呼び止める。
「何か調べているようですが、またもやあの術師に頼る羽目になりましたか」
「ああ。でも仕方ないだろう。この手のことに詳しいのは、この町ではあいつしかいない」
「言っておきますが立成様。あの術師、腕は確かですが、人ではないという噂も聞きます。くれぐれもお気をつけなされよ」
立成はそれを聞いて笑いそうになった。情侑が人でないことくらい、立成はすでに知っている。直隆の忠告は遅すぎるくらいだ。
「分かっているとも。それでは失礼する」
立成は直隆の部屋を後にした。そのまま外に出て、門番の元へ向かう。立成は気取るところがないから屋敷の者には好かれている。
立成が近づくと、門番たちは笑顔で迎えてくれた。
「立成様、どうされました?」
「聞きたいことがあってな。中田家の雅殿が今日、屋敷を訪れていないか」
すると、門番の1人が小さく声を上げた。
「来ましたよ。
「用向きは言っていたか?」
「特には。立成様に会いに来たのではないかと思ったのですが、違うのですか?」
「いや。どのくらい屋敷にいたかわかるか」
「正確には分かりかねますが、昼餉が終わる前には帰られたと思います」
「何か、雅殿に変わった様子はなかったか」
「うーん、そう言われると、少し顔色が悪いようにも見えたような」
「そうか。仕事中に悪かった。戻ってくれ」
仕事に戻る門番たちを見ながら、立成は考える。
中田雅は先月、戦に行き、その後に調子を崩している。そして、今日の昼餉前に立成の屋敷を訪れ、すぐに去った。そのわずかの間に、庭に文を落としたのだろうか。
可能性を出ない話ではあるが、中田雅について調べてみる価値はある。
幸い、中田家の屋敷はここから近い。立成ならば、すぐに屋敷の中に通してくれるだろう。
問題があるとすれば。
「情侑を通してくれるだろうか……」
ある事件を起こした結果、立成の屋敷に出入りできなくなった男である。中田家の者がそのことを知っていたら、情侑のことを通してくれないかもしれない。
ひとまず、己だけでも、中田家に行ってみよう。そう考えて立成は門を出た。
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