術師の鬼と化け物の呪い
泡沫 希生
名のなき文
あの夢を見たのは、これで9回目だった。どうにもこうにも気持ちが悪いので、この紅い夢の原因を探ってほしい。
あなたの術師としての腕は良いと伺っている。あなたならどうにかできると思い、
そこで、文を読み上げている声が止まる。
「だとさ。それで、俺に、どうしてほしいのかな」
男は文から顔を上げた。柄付きの羽織を着る、その男は目を見張るほど美しい。見た目は20歳ほどに見える。
1つ結びにした深緑の髪も金の瞳も、1度見れば脳裏に焼き付く。それこそ、人ではないのではないかと思うほどの美丈夫だ。
彼の前には座卓を挟んで、黒髪の男がいる。その男が今度は口を開く。
「
「そう言ってもね
情侑、と呼ばれた美しい男は、手にした文をひらひらと振って見せる。
その様子を見て、黒髪の男――立成は眉をひそめる。凛々しい顔つきの立成は、
「この町に、術師はお前しかいない」
「じゃあ、俺宛の文が、なんで君の屋敷の庭に落ちていたのかな」
「それを含めて調べてほしくて、ここに来たんだ」
「なるほど、そうきたか」
はぁ、と面倒くさそうに情侑は息を吐いた。
術師を営む情侑の元には、奇妙な依頼が集まる。
奇妙な技や道具を用いて人助けをするのが術師だから、依頼も変わったものが多いのは必然なのかもしれない。
だが、情侑の腕は確かだ。それは立成もよく知っている。友人と言える間柄の2人が出会ったきっかけも奇妙な出来事で、それを鮮やかに解決してみせたのが情侑だ。
彼らの出会いについて今は置いておくにして、現状重要なのは、この謎の文である。
立成が屋敷で
「情侑。お前、やる気がある時とない時の差が激しくないか」
「そりゃあ、誰だってあるでしょ。朝からなんにもしたくない日。俺は今日がその日でね」
不意に、情侑は文に顔を近づけた。それからすぐに離したかと思うと、じっくり文を眺め始める。
「ところで立成。朝は何も落ちてなかったのかな」
「おそらく。朝はいつも掃除をしている者がいるからな」
「ちなみに、君の家の庭は外の人は入れる?」
「門を通らなければ入れない。庭も塀に囲まれているからな」
答えながら立成は気づく。質問をする度に、まだ笑みを浮かべているものの、情侑の声音に真剣さが増す。
「君は、屋敷の人たちに、この文を落としていないか聞き回った?」
「その可能性は真っ先に考え、聞ける者には聞いた。落としていないと皆が言うものだから、他に方法も浮かばず、ここに来たのだ」
「言えないのか。それとも、君が聞き回った時にはもう、屋敷にいなかったのか」
気づけば、情侑の顔から笑みが消えている。
「どうした、突然やる気を出したな」
「この文さ、冥土の匂いがするんだよ」
「冥土?」
開かれていた文が、勝手に動き出したかと思うと、ひとりでに文が畳まれた。その文を掴みながら情侑は低く告げる。
「急がないと、この夢を見ている人は、死ぬ」
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