「狐のお宿にようこそ」神様御用達のお宿で最強の神様に溺愛されました(全年齢版)
西野和歌
第1話
神様が疲れを癒すその場所は、九尾の狐とその娘たちが営む狐のお宿。
三匹の子狐達は、それはそれはそっくりで仲も良く、常にコロコロと三匹でたわむれては客の目を楽しませていたのは昔の話。
大きくなった娘たちは、それぞれに花開き、それぞれの個性も色濃く出てくるお年頃。
「さあ、早く出迎えの準備をしなさいな」
「はい母様」
三匹の娘たちは、せっせと次に宿泊する客の準備に大わらわ。
なぜなら、次の客はこの宿でも特別に大切な得意客。
娘たちが幼い頃から通い続け、そして神としても格上である最上様。
最高級のおもてなしをと、てんやわんやで準備する。
「ああ、久しぶりの最上様。また、あの麗しいお姿が拝見できるなんて」
「あれだけ龍を束ねてお忙しい方ですもの、それはそれはお疲れのはず」
「なら、頑張ってここで癒して頂かないと」
最後の末妹の言葉に、姉たちはキッと目をつりあげる。
「いい事サクラ、あんたはドジなんだから余計な事はしなくていいの」
「そうよサクラ、出迎えの挨拶が終わったら、とっとと湯屋の掃除を済ませて頂戴」
「……はい、アヤメ姉さま、スミレ姉さま」
同じように生まれ、見た目は同じ三つ子でも、私一人はなぜか違う。
長姉のアヤメ姉様のように賢くもなければ、次姉のスミレ姉様のように気立ても良くない。
つい最近も、配膳前の食事を廊下にぶちまけて、食事抜きになったばかりだ。
それでもめげるわけにいかない。皆がしない事、面倒な事を率先して頑張って、このお宿の為に尽くさなくては。
まもなく訪れる最上様は、私たちが幼い頃より良くして頂いている。
あの頃は私も姉たちと共に、よく無邪気に輪になって遊んでいたものだ。
あれから年月が立ち、どうして自分だけこうも差が出てしまったのだろうか。
「ほらグズグズしないで、早く行くわよ」
せかされて私は急いで後を追う。
玄関では、既に並ぶ他の従業員たちと共に、私たちも整列して出迎えの準備は整った。
私たちの宿は全て狐、人型をとれるのは母様と私たちだけ。
この宿屋は三階建ての茅葺屋根の木造建築、ウリは質の良い露天風呂と山菜や魚を使った料理。
いつからあるのかわからない古い歴史ある建物で、大昔から神様たちを癒してきたそうだ。
皆はこの宿屋を「狐のお宿」と呼んでいた。
人間たちが決して訪れる事のできない妖の領域。
ひそかに人の為に、妖の為に働く神様たちの疲れをいやす、そんな隠れ家的な存在。
色々な神様が、このお宿を訪れては帰って行く。
そんな神様の中でも、特別な本日の来客「最上様」が間もなく到着する。
この瞬間が一番緊張するのだ。
色々な容姿の神様もいれば、性格も性質もまったく違う。
神気のみを蓄える人の姿ならざる神様もいらっしゃれば、気の荒い獣の姿の肉を喰らう神様だっていらっしゃる。
粗相のないように、私たちは必死に精神をすり減らしてお仕えするのだ。
それが、この狐のお宿の宿命なのだから。
正門を過ぎて正面玄関に続く道。来るは迎橋、帰るは戻り橋という橋がかかり、そこに待ちに待った姿が現れる。
牛車や火車に乗るでもなく、トコトコと自らの足で訪れたるその方こそ、今宵から七日間のご宿泊のお客様。
あまねく天地の龍の長であり、神格も高い最高神の一人。
その名も最上様、神の名は真名は魂と結びつくゆえに、通名として皆からそう呼ばれているお方。
その長い銀の髪は、月に風を絡ませて紡いだ如くキラキラと輝き、高き空と同じ蒼き瞳は、万物の上に立つ気品を漂わせる。
神々しい顔は人の目すら焼き尽くす美しさで、妖ですら魅入られ全てを差し出してしまう程。
静かに訪れたその方は、切れ長の瞳でチラリとこちらを見たあとに、誰しもが痺れる心地よい声で挨拶をしてくれた。
「今日からまた世話になるよ。宜しく頼む」
私たちは腰が折れるほどに頭を下げて礼をする。
本来なら口を利く事すらままならない存在なのだ。
最上様は気安くお声をかけて下さるが、それでも礼節は守らなければならない。
母様が代表して挨拶を交わして、部屋に案内して行く。
頭を垂れた私の前を通過する一瞬、最上様が私を見た気がするが、あくまで気のせいだろうと私はジッと自分の足を見続けた。
「ほらサクラ、いつまでボーッとしてるのよ。とっとと湯屋の掃除に行きなさい」
「はいっ姉様」
私はハッと我に返って、急いで湯屋に向かって走った。
―――――――――――――――――――――
初めてまして。天野和歌です(別名義・西野和歌) 基本は別サイトTL女性向けを書いてます。 必ず完結を基本に投稿しており、この作品もこちらでは、完結まで毎日22時投稿となります。 もし宜しければ最後まで宜しくお願いします。 また、応援☆☆☆を頂けると嬉しいです。 少しでも楽しんで頂けますように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます