第9話 ガーパイク

 カゲロウの出現は、ユウトたちに新たな緊張をもたらした。八千代の使者と名乗る男は、ただならぬ雰囲気を纏っており、その言葉には、底知れぬ力が秘められていた。

「八千代様が、お前たちを、お迎えしたいそうだ…」

 カゲロウの言葉は、ユウトたちを霞ヶ浦へと誘うものだった。霞ヶ浦は、広大な湖であり、その水面は、まるで鏡のように、周囲の風景を映し出していた。

 霞ヶ浦へと向かう途中、ユウトたちは、異様な光景を目にする。湖面に、巨大な影が蠢いていたのだ。

「あれは…!」

 ユウトが呟くと、義宣が答えた。

「ガーパイク…!まさか、こんなところに…!」

 ガーパイクは、北米原産の巨大な肉食魚であり、その獰猛さから、「生きた化石」とも呼ばれていた。本来、日本の湖に生息するはずのないガーパイクが、なぜ霞ヶ浦に現れたのか。

 その時、湖面から、巨大なガーパイクが姿を現した。その体長は、ゆうに10メートルを超え、鋭い牙が並んだ口は、まるで鋸のようだった。

「グルルルル…!」

 ガーパイクは、ユウトたちに向かって、咆哮を上げた。その咆哮は、周囲の空気を震わせ、人々の恐怖心を煽った。

「くっ…!こんなところで、足止めを食らっている場合じゃないのに…!」

 ユウトは、焦りを隠せなかった。しかし、ガーパイクは、ユウトたちの行く手を阻むように、湖面を暴れ回っていた。

「ここは、一度退きましょう」

 秀吉が、冷静に言った。

「しかし、秀吉様…!」

 ユウトが言いかけると、秀吉は、答えた。

「今は、無駄な戦いを避けるべきです。わたくしには、考えがあります」

 秀吉は、そう言うと、懐から、小さな瓶を取り出した。

「これは、わたくしが調合した、特製の魚用餌です。この餌には、ガーパイクを大人しくさせる効果があります」

 秀吉は、そう言うと、餌を湖面に投げ入れた。すると、ガーパイクは、餌に気を取られ、大人しくなった。

「今のうちに、先へ進みましょう」

 秀吉の言葉に、ユウトたちは、頷き、霞ヶ浦の奥へと進んだ。

 霞ヶ浦の奥には、八千代の居城である、水上都市が聳え立っていた。水上都市は、巨大なドーム状の建造物であり、その内部は、高度な技術で制御された、人工的な生態系が構築されていた。

「ここが、八千代の…!」

 ユウトは、息を呑んだ。水上都市は、まるで、別の世界に迷い込んだかのような、幻想的な光景だった。

 その時、ユウトたちの前に、カゲロウが現れた。

「ようこそ、八千代様の水上都市へ」

 カゲロウは、冷たい笑みを浮かべた。

「八千代様は、お前たちを、お待ちかねだ」

 カゲロウに導かれ、ユウトたちは、水上都市の内部へと足を踏み入れた。そこには、見たこともないような、奇妙な生物たちが生息しており、その光景は、ユウトたちを圧倒した。

 そして、彼らは、ついに、八千代と対峙する。

「よく来たな、ユウトたち」

 八千代は、静かに言った。その声は、優しく、そして、どこか悲しげだった。

「お前たちに、見せたいものがある」

 八千代は、そう言うと、ユウトたちを、水上都市の中心部へと案内した。そこには、巨大な水槽があり、その中には、ガーパイクが飼育されていた。

「このガーパイクは、わたくしが、連れてきたのです」

 八千代は、静かに言った。

「ガーパイクは、本来、この湖に生息するはずのない生物です。しかし、わたくしは、この湖に、新たな生態系を創造しようとしているのです」

 八千代の言葉に、ユウトたちは、戸惑いを隠せなかった。

「新たな生態系…?それが、あなたの目的ですか?」

 ユウトが尋ねると、八千代は、答えた。

「そうです。わたくしは、この湖を、理想郷にしたいのです。人間と、自然が、共存できる、美しい世界に…」

 八千代の言葉は、ユウトたちの心を揺さぶった。しかし、その理想は、あまりにも現実離れしていた。

「しかし、八千代様…!あなたのやり方は、間違っています!」

 ユウトは、声を上げた。

「あなたは、人間の都合で、自然を歪めている!それは、決して、共存とは言えません!」

 ユウトの言葉に、八千代は、悲しげな表情を浮かべた。

「わたくしは、ただ、人間と自然が、共に生きられる世界を、創りたかっただけなのです…」

 八千代の言葉は、ユウトたちの胸に、深く突き刺さった。八千代は、決して、悪人ではなかった。ただ、その理想が、あまりにも純粋すぎたのだ。

その時、水槽の中のガーパイクが、突然、暴れ始めた。

「グルルルル…!」

 ガーパイクは、水槽を破壊し、水上都市の内部を、破壊し始めた。

「しまった…!ガーパイクが、暴走を始めた…!」

 八千代は、焦りを隠せなかった。ガーパイクは、八千代の制御を離れ、破壊の限りを尽くそうとしていた。

「ユウト…!力を貸してください…!」

 八千代は、ユウトに、助けを求めた。

ユウトは、迷った。八千代の理想は、間違っていた。しかし、彼女の心は、純粋だった。

「わかりました…!力を貸します!」

 ユウトは、刀を構え、ガーパイクに立ち向かった。

 ユウト、義宣、アスカ、秀吉。彼らは、それぞれの力を合わせ、ガーパイクを鎮めようと奮闘した。

 激しい戦いの末、ユウトたちは、ついに、ガーパイクを鎮めることに成功した。ガーパイクは、再び、水槽の中へと戻り、静かになった。

「ありがとう…、ユウト…」

 八千代は、ユウトに、感謝の言葉を述べた。

「わたくしは、間違っていました…」

 八千代は、静かに言った。

「人間と自然は、決して、支配と被支配の関係ではありません。互いに尊重し、助け合い、共に生きていくべきなのです…」

 八千代の言葉は、ユウトたちの心に、深く響いた。

「八千代様…」

 ユウトは、八千代に、手を差し伸べた。

「共に、人間と自然が、共存できる世界を、創りましょう」

 ユウトの言葉に、八千代は、微笑んだ。

「はい…」

 八千代は、ユウトの手を取り、立ち上がった。

こうして、ユウトたちは、八千代との戦いを終え、 新たな仲間を得た。彼らは、共に、人間と自然が、共存できる世界を目指し、歩み始めた。

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