第14話 ダンジョン探索 オフィス編

 周りを警戒しつつ、久々に同年代ぐらいの人と世間話ができた。


 彼らは僕と同じ違法探索者だ。ダンジョンへの不法侵入は処罰対象となる行為だが、法がまともに機能していない今となっては、誰も気にしていない。それでも、武闘派探偵と名乗る彼らは異色の存在だと思う。


「所長の酒代の建て替えのために潜っているんだよねぇ。あ、所長は飲んだくれだけど素晴らしいお人だよ」


「それより! その怪我は大丈夫なの?」


 元気よく話しかける様に驚きつつ、自分の姿を確認する。


 所々破けていて、焼け焦げている跡が目立つ学生服。隙間からはぐるぐると包帯がのぞく。そして、傷を隠すように浴衣を羽織っている。


 こうして見ると、彼らと引けを取らない恰好の異様さだ。


「全然大丈夫です」


 お腹のずきりと来る痛みも、右手や胴体に残った火傷のかゆみもない。無意識に気を巡らせて治癒したようだ。


 モンスターを警戒しながら、話を続ける。


「コーさんのその恰好は探偵というか、ハンターみたいですよね」


 彼女の服装にはモンスターの素材が多く用いられている。民族的なコスプレ衣装だとしても、この場において異様な服飾だ。両手で大剣を支え、弓を背に携える姿はすごい。


 口をついて出た言葉に、彼女は胸を張って頷いた。


「当然、私はモンスターハンターだから!」


「いや、探偵助手だから僕たちは。あんまり気にしないでね、この子は思い込みが激しいタイプなんだ」


「具現化系の能力者兼モンスターハンター兼助手、ってことで! あと、さん付けしなくていいから、同い年みたいだし!」


 活発に喋るコーとは対照的に、ラクさんは肩をすくめている。やっぱり、ダンジョンに潜る人はどこかおかしいのか、普通の人とは何かが違う。


「それで、依頼内容はダンジョンのボスを撃破して、駅の方のダンジョンを調査することになってる。だから、まず君と一緒に——」


 言葉が途切れた。突然、オフィスの壁が歪み始める。


「くる」


 コーの警告とほぼ同時に、歪みの中からボロボロの対浸蝕装備をまとった集団が現れた。星喰いの構成員だ。


「「あ」」


 お互い鉢合わせたことに対して驚きで一瞬、動きが止まった。


「撃て!」


 火薬の爆ぜる音と共に怒声が響き渡る。


「ここは私が!」


 コーが叫ぶと同時に、大剣を前に構えて突進した。銃弾が分厚い刃に弾かれ、火花が散る。


「一刀両断!」


 踏み込んだ瞬間、大剣が構成員達に向かって振り下ろされる。血肉ごと叩き切り地面に刃がめり込んだ。


「——水よ、流れと共に絡みつき、重き鎖となれ。天の星を落とし、絶え間なき束縛を!」


 ラクさんは大声で詠唱を行うと同時に魔素が周囲に集結する。水が地面から滲み出し、蛇のようにうねりながら星喰いの構成員たちに絡みついていった。重く粘る鎖で足の動きを阻害し、骨を絞め折っているようだ。


 僕は、焦りの声を上げる構成員達を観察しながら静かに近寄る。そして、一気に踏み込んだ。


 困惑して固まる敵に容赦なく拳を叩き込む。顔面に掌底を打ち、怯んだところに腹を抉る蹴りで追撃を加える。


「うらぁっ!」


 次々と殴り、蹴り、確実に構成員を沈めた。ついには、彼らは全滅した。


「はは、意外とやるね!」


 ラクさんが感心したように笑い、コーは大剣を肩に担いで不満そうに笑みをもらす。


「ヒトじゃなくてモンスターを狩りたかった!」


 探偵助手の二人は辺りを見渡す。地面に転がる構成員の中には、呻き声を上げながらも意識のある者が数人いた。


 彼らはまだ生きている構成員達の身ぐるみを剥いでいった。


「これ売れるかな」


 まじか、と思いながら見つめていると、ラクさんが弁明するように焦りながら口を開く。


「僕ぁはさ、常々思うんだけど殺そうとしてきたんだから殺されても仕方がないよね。それに止めを刺していないだけ優しいよね、僕たち」


 いや、さすがに身ぐるみを剥がすのはちょっと受け入れられない。


「そうですね……」


 うれしそうに強奪した魔石を掲げるコーの姿を見ながら、僕はなんとも言えない気持ちになった。


「いぇい! でっかい魔石だ!」


 二人とも物色を終えて、装備を点検し、また進み始めた。構成員たちを放置し、ダンジョンの深層へと足を踏み入れる。崩れた天井と壁を階段代わりに、上の階へ駆け上る。


 かつて会社のオフィスだった場所は、今や現実から逸脱した異空間と化している。天井は異様なほど高くなっていて、壁が湾曲している。高級そうなデスクや椅子は宙に浮いていたり、天井からぶら下がっていたりと、重力すらも不安定だ。


「このダンジョンは空間が歪み始めてる。たぶん、もう一つの駅のダンジョンに繋がってるかも」


「グランドゼロにも繋がっている説、って知ってる? 全てのダンジョンは渋夜のグランドゼロに通じてる可能性があるんだって」


 コーが隣で一方的に話しかけて来る。彼女に相槌を打ちつつ、思考が徐々に整理されていく。


 そうか、駅のダンジョンに星喰いの本拠地があるから、繋がっているこのダンジョンにも彼らが来るのか。現に歪んだ空間から彼らはいきなり現れていた。


 不意に気になっていたことを質問する。


「その大剣って遺失物なんですか? 装甲ごと叩き切るってめっちゃやばい威力ですね」


「うへっ、よくぞ聞いてくれました! 遺失物ではないんだけどね、でも半分遺失物って言ってもいいのかな。私の異能で再現してるんだよ」


「お姉ちゃんが使ってた弓、夕夏……私の妹が使ってた大剣の遺失物を記憶そのまま作ったんだ」


 大剣をぽんぽんと叩いてから、続ける。


「研石がなくても切れ味がいいんだよ!」


 そう言う彼女の表情は、無理やり作ったような笑顔だった。どこか寂しげで、隠しきれない不安を感じさせる。


 笑顔の奥に、何かを抱えた感情が見え隠れしている。


 僕はそんな彼女に頷いて、前を向いた。

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現代ダンジョンがはびこる世界で僕だけが気をつかう @oukaein

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