第12話 赤鴉ダンジョン
まずは、東雲さんの跡を追うことにした。周囲にダンジョンから生まれた魔獣はいない。おそらく、探索者が倒していったのだろう。
換金所に着くと、解体された資材と荒れ果てた地面だけが名残を残していた。ちらほらと作業員らしき人影が動き回っている。数十人はいた前哨基地は解体され、撤収の段階へ移っている。
人手不足なのに撤収は早いんだな、そう思いながら遠くから観察する。東雲さんはいないみたいだ。残っている職員や探索者に訪ねて回りたいが、僕はお尋ね者になっているかもしれないから容易に近づけない。
ここにいても仕方がないか。他のダンジョンへ向かう。強くなって東雲さんとの決着をつけるために。
崩れたビル。ひび割れたアスファルト。草が隙間から顔を出している。元は商店街だった場所も、今では面影すら残っていない、なんてことはないが一年前とは似ても似つかない光景。モンスターの中でも特に魔獣の攻撃の跡が目立っている。
蔓延していた魔力支配の境界を抜けた先に一歩ずつ確かに踏みしめていく。期待と不安が入り混じりつつ、近くのダンジョンへ歩を進めていった。
放置されていた自転車に乗りながら目指した。胸の苦しさがなくなっていく。ダンジョンが近くなってきたようだ。
「ん?」
不思議な感じがする。周囲に漂う開放的な空気を意識しながら、気を巡らせた。
「ああ、なるほど」
感覚を研ぎ澄ませると、はっきりとした二つの気配が浮かび上がる。
一つは小さく、それでいて不安定なもの。入り口の周囲にわずかな魔素が漂い、呼吸するように脈打っている。もう一つは圧倒的だ。重く広大な存在感。底なしの深淵を覗き込む感覚。空気が歪み、皮膚を越えて内臓にじわりと重圧がのしかかるほどの魔力。
「A級か、それ以上かな」
ダンジョンのランクは魔力が及ぼす魔素の規模で判断される。この気配は、まぎれもなく大型ダンジョンだ。小さいダンジョンと大きいダンジョン、どこかで地続きになっている。
「まずは小さい方から攻めるか」
ペダルを漕ぐごとにキーキーとなる自転車を路肩に止めて歩き出した。
赤鴉市、オフィス街に僕はいる。街に足を踏み入れると、周囲にはまだ原形を保つビルが並んでいた。中小企業が多かったエリアみたいだ。歴史のあるような古めのオフィスビル群。ちらほらと飲食店や居酒屋を見かける。
「やっぱり、なんか開放的なのは新しめのダンジョンだからか」
僕がいたダンジョンに比べて随分と活気がある。魔素の侵食が少なく、ダンジョン化してからの期間が短い。モンスターもあまりいないが、人の気配が多数ある。
この赤鴉ダンジョンには人が多くいる。違法探索者達だ。違法探索者には種類があって、やばい奴らと大丈夫そうな奴らがいる。やばい奴らは見た目でわかるから近づかなければ大丈夫だ。
「ダンジョン……あれかな」
前方には大きなビルがそびえ立っていた。ビルの入り口が大きく崩れ、そこから漆黒の亀裂が広がっている。
ダンジョン発生で建物ごと魔力に支配され、勢いよく入口となったんだろう。入り口の周囲には魔素がうごめいている。吸い込むように魔素がビルに集まり続けているのが分かった。
やばそうな探索者を避けつつ、ダンジョンの入り口に飛び込んだ。
足を踏み入れた瞬間、視界が揺らめく。空気が一変した。圧迫感と共に、無機質な冷たさを感じる魔力。壁や床のコンクリートは金属のような光沢を帯び、内部の構造も大きく変異している。
「ふう。ダンジョン内だと全然息苦しくない」
この息苦しさは力の流れが影響している。狐獣人の土地では流れが強く、過ごしやすい場所だった。そこまではいかないが、ここも大分過ごしやすい。
「ダンジョン攻略してまた狐のあの人に絶対会う」
後、修行もして強くなる。そのためには瞑想が必要だ。
ふと、建物のフロア説明の地図が目に入る。
「三十五階建てか」
地図によると、ここは元々巨大なオフィスビルだった。一階は広々としたエントランスフロア。三階にはカフェテリアラウンジ。中層の十階からはオフィス階が続いている。
だが、今のこの場所がその通りとは限らない。
「どうなってるかな」
僕は深呼吸をして気を巡らせた。
自分を中心に波紋のように広がる気配。意識を集中させる。
「……やっぱりか」
このビルには、全ての階が存在しているわけではないみたいだ。
空間が捻じ曲げられ、いくつかの階が欠落していた。あるいは重複し、同じ階を繰り返している可能性もあるのかも。
それに、魔素の濃度が特定の階層間で不安定に跳ね上がっている。強い存在が移動しているのかな。
「ボスが移動する、そんなダンジョンもあるのか」
とりあえず、三階のカフェテリアを目指す。そこで瞑想してみよう。休憩スペースとして広いフロアは視界を確保でき安全だ。ダンジョン攻略の見通しを立てるためにも、まずはそこに向かうことにする。
気を取り直して走り出した。金属質な床を踏みしめながら、上に進む。
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