作家人生幕を開く

藤崎

作家人生幕を開く

先生  30歳 作家 一人称:俺

基本的に穏やかな人

作品に対する執着が異常、熱中している時は返事がそっけなくなる

妻に気持ちを伝えることはないがちゃんと愛してる

信頼しているが故に担当者には雑に対応する


妻   20歳 先生の妻 一人称:わたくし

長年先生の作品のファンで半分強引に結婚を申し込んだ

先生のためならなんでもする

お淑やかだけどしっかりした芯のある女性

売薬のことは「旦那様の親しい薬屋」としか思っていない


担当者 24歳 先生の担当編集者 一人称:わたし

最初は純粋に先生を応援している仕事熱心な人

ミリオンセラー作家の担当者になりたい


売薬  24歳 いつも薬を配達しにくる薬屋 一人称:僕

先生のファン、先生のためならなんでもする

先生が自分じゃない誰かを思った発言をすると嫉妬する

妻のことはあまりよく思っていない



【以下本編】

1日目


担当者:先生、締め切りまで1週間を切りました

    この原稿埋まってるところの方が少ないじゃないですか


先 生:あぁ、分かっている

    だから今こうして机に向かって書いているではないか


担当者:机に向かって書いている"フリ"をしているの間違いでは?


先 生:君がさっきから話しかけてくるのが悪いんだろう


担当者:またそうやって開き直る


先 生:とにかく、俺は今忙しいんだ

    話しかけるな、出ていってくれ


担当者:いいえ、出ていきません

    私が見ていない隙にまた逃げるんでしょう


〈お茶を持った妻が部屋に入る〉


 妻 :失礼します、お茶が入りましたよ


担当者:あ、奥さん、ありがとうございます

    ほら先生、見せてあげたらどうです

    そのまっさらな原稿用紙を


先 生:ほっとけ、こいつに見られたところで痛くも痒くもないわ


担当者:またそういうことを言う

    あ、じゃあ奥さんから何か案をもらってみては?


先 生:案?


担当者:奥さんの好きな話とか、最近読んだ本とか

    奥さん何かあります?


 妻 :そうですね、最近読んだ本といえば…

    奇怪小説とか推理小説とか


担当者:あ、思ってたのと違う


先 生:推理小説か…


担当者:心動かされないでください

    今までそんなの書いたことないじゃありませんか


先 生:書いたことないから書けないという訳でもないだろう

    やってみんとわからん


担当者:はぁ、全く、よりによって推理小説って…

    でもこの間実際に起きた事件を元に小説書いてた人いたな


先 生:ほぉ?それは興味深い、どんなものだっ、



〈言葉を被せるようにして売薬がくる〉


売 薬:ごめんくださーい


 妻 :はーい


担当者:誰ですかね


先 生:売薬だろう


担当者:あぁ、先生いつも買われてますもんね、薬


先 生:そんなことはどうでもいいんだ

    それよりさっきの話、詳しく聞かせてくれ


〈玄関先で売薬と妻が話す〉


売 薬:いつもありがとうございます


 妻 :いいえこちらこそ、いつもご苦労様


売 薬:そういえば最近先生見かけませんね

    お元気にされてますか


 妻 :いつものですよ、締め切りが近いんです


売 薬:あぁ、なるほど

    ちょっとでも顔が見たかったな(独り言ぽく)


    いや!邪魔しちゃいけねぇ


 妻 :いつも慌ててなんとか間に合っているので、今回も大丈夫だとは思いますが


売 薬:先生は心配ありませんよ

    先生の作品はどれも面白いですから

    ドーンと売れないのが不思議ですよ


 妻 :そのままお伝えしますね


売 薬:先生色男って付け足しといてください

    次は顔を見られるといいけど、じゃ、まいどー


〈売薬が帰り妻が部屋に戻ってくる〉


 妻 :いつものが届きましたよ


先 生:そこに置いておいてくれ


 妻 :はい

    何かいい案でも思いついたんですか


担当者:残り1週間という期限の中で推理小説を書き上げるんだそうです


 妻 :まぁ、楽しみですね


担当者:本当に完成するんですかね


 妻 :手は止まっていませんし、案外先生に合っているのかもしれませんよ

    今回は珍しく逃げることもないかもしれませんね


担当者:だといいんですけどねー


(間)


先 生:ちょっと出かけてくる


担当者:あ、ちょっと先生!


先 生:用事を済ませてくるだけだ、すぐに戻る


担当者:本当にすぐ戻ってくるんですかね

    後つけようかな…


 妻 :ああ言ったときは本当にすぐ帰ってこられますよ

    何か小説に必要なものでも買いに行かれたのでしょう


担当者:そうですか?まぁ奥さんがそう言われるのなら、

    それにしても大きい家ですね、掃除とか大変でしょう

    なんでも女中(じょちゅう)を雇わないとか


 妻 :えぇ、人を使うというのが性に合わなくて

    うちには私がおりますから、旦那様の周りのことは私が喜んで致しますよ


担当者:先生は幸せ者だなぁ、もっと感謝してほしいものですね


 妻 :いいえ、先生にはいつも助けられています

    十分いろんなものを頂いておりますよ


担当者:いい嫁さんだ


〈外出していた先生が帰ってくる〉


先 生:帰ったぞ


担当者:本当にすぐ帰ってきた、そしてすぐに机に向かっている


 妻 :この調子でいくと今回も間に合いそうですね


担当者:そうですね、頑張ってもらいましょう

    あっ、では私はそろそろお暇させてもらいます


 妻 :あら、良かったらお夕飯食べて行かれては?


担当者:それは嬉しいお話、ですが生憎予定が詰まってまして


 妻 :そうですか、それは残念

    ではまたお時間の合う時に


担当者:はい、よろしくお願いします

    先生ー、私はこれで失礼しますねー

    来週また伺うのでそれまでに原稿お願いします


先生:あぁ、任せておけ


担当者:心配だなぁ、じゃあお邪魔しました


 妻 :ご苦労様です



2日目


〈縁側に座ってゆっくりしている妻の元に創作を中断した先生がくる〉


 妻 :あ、旦那様、お仕事の方は休憩ですか?


先 生:うん、なかなか進まなくて、少し離れてみようと思ってね


 妻 :お疲れ様です

    お茶でも淹れましょうかね


先 生:あぁ、頼む


〈妻がお茶を淹れる〉


先 生:今日は星か綺麗だね


 妻 :そうですね、空気も澄んでいてとても綺麗


先 生:悪いことは何も起こらない、平和だ


〈静かに空を眺める2人〉


 妻 :そういえばお隣の息子さん、陸軍士官学校に入学が決まったそうですよ


先 生:お、それはめでたい、夢を叶える道を見つけたんだね

    小さい頃から軍人になりたいと言っていたからな


 妻 :来週から寮に入られるそうです


先 生:なんとも嬉しい知らせだね


 妻 :えぇ、本当に


先 生:夢かぁ…

    君は何かないのかい?やってみたいことや叶えたい夢


〈妻は少し考えて嬉しそうに照れくさそうに答える〉


 妻 :夢ですか

    私の夢は旦那様の作品が好評を博すこと、ですかね


先 生:それは、頑張らなければ 笑


 妻 :先生ならきっとできます、私はその為ならなんだって致しますよ


先 生:ありがとう

    君は前にもそんなことを言っていたね、俺の為なら命も惜しくないと


 妻 :はい、本当のことですよ

    先生の為になるのなら喜んでこの命も差し上げます

    旦那様はそんなことを言う女はお嫌いですか?


先 生:いいや、実に魅力的だ

    愛おしい妻の全てを我が物にできるのだからね

    俺の手で初めて終わらせられる、君は俺だけを知って終わる

    最高じゃあないか


 妻 :素敵、まさに私の宿願ですわ



3日目


売 薬:こんにちはー


 妻 :売薬さんですね

    一昨日いらした時に旦那様を久しく見ていないと言っていましたよ

    今日は旦那様が出られてみては?


先 生:うん、ではそうしよう


〈先生が玄関へ向かう〉


先 生:やぁ、ご苦労さん


売 薬:先生!お元気でしたか


先 生:おかげさまでね


売 薬:いやぁ、お久しぶりですね


先 生:なかなか顔を出せなくて悪かってね


売 薬:いえいえ、お変わりなさそうで良かったです

    原稿の方はどうですか?


先 生:…まぁ、順調だよ


売 薬:また焦ってるんですね

    僕に出来る事があればなんでも言ってくださいね


先 生:本当か


売 薬:任せてください!

    先生のお力になれるのなら本望です


先 生:それは心強い、その時はよろしく頼むよ


売 薬:なんなりと

    じゃあ薬、今回はどれくらい渡しときますか?


先 生:そうだな、1週間分くらいほしいな


売 薬:本当に大丈夫ですか?そんなに渡して


先 生:というと?


売 薬:以前一度に渡して、次回まで持たなかったじゃないですか

    先生は前科があるからなぁ


先 生:もうあんな無茶はしないよ

    あの時はどうしようもなくて自暴自棄になっていたんだ


売 薬:そうですか?


先 生:君だってそう何度も来るのは大変だろう

    他にも行く家はあるだろうに


売 薬:それはもう全然

    先生の為ならどこまでも行きますよ


先 生:ほぉ 笑

    それは頼もしい


売 薬:では薬は3日分ほどで…


先 生:1週間分


売 薬:、はい

    じゃあまたきます、まいどどうもー


〈売薬が帰って先生が部屋へ戻る〉


 妻 :おかえりなさい


先 生:あぁ、ただいま


 妻 :ずいぶん話し込まれていましたね

    今回は何日分頂いたんですか?


先 生:1週間分だ


 妻 :…では、これは私が預かっておきますね


先 生:君までなんなんだ…


〈その日の夕方〉


担当者:ごめんくださーい


 妻 :はーい


担当者:突然すみません、先生に差し入れです


 妻 :あら

    旦那様、担当者さんがきてくださいましたよ


先 生:どうしたんだ


担当者:作品作りに苦戦しているであろう先生に差し入れです

    本当に起きた事件が元になった作品数冊と人気の推理小説です

    これ読んでしっかり勉強してください


先 生:それは…ありがたい


担当者:うわぁ、嫌そうな顔だな、冗談ですよ

    努力家な先生のこと、自分でもいくつか買って読んでるんでしょう


先 生:まぁな

    でもこれはとてもありがたい、参考にさせてもらうよ


担当者:はい、期待してますよ

    今まで出した本の総合売上は60万部

    今度の一作品で100万部を目指しましょう!


先 生:そうだな


担当者:相変わらず冷たいな、

    じゃあ仕事があるので私はこれで


先 生:あぁ、ご苦労様


〈作品に集中している先生は私生活を疎かにするようになった〉


 妻 :旦那様、お夕飯ができましたよ


先 生:先に食べてくれ、いいところなんだ

    今書いておかないと忘れてしまう


 妻 :…お仕事も大切ですが、生活を疎かにしては体に悪いですよ


先 生:あぁ…


 妻 :…


(間)


 妻 :旦那様


先 生:…なんだ


 妻 :お先に休ませて頂きます

    旦那様は何時頃お休みになられますか


先 生:そうだな、もう少し話を進めたら寝るよ


 妻 :そうですか、では、おやすみなさい


先 生:おやすみ



4日目


先 生:少し出掛けてくる


 妻 :今日はどちらへ?


先 生:気分転換に散歩をね


 妻 :何時頃戻られますか、お夕飯は…


先 生:すぐ帰るよ、夕飯はうちで食べる

    なんだ、そんなに寂しいか?笑


 妻 :旦那様は、意地悪ですね

    気をつけていってらっしゃい


先 生:あぁ、行ってくる


〈街を歩く先生〉


売 薬:先生?


先 生:売薬君じゃあないか、昨日ぶりだね


売 薬:奇遇ですね、まさか先生に会えるとは


先 生:なんだ、その顔は

    俺に会えてそんなに嬉しいか 笑


売 薬:あ、いや、これは、あはは


先 生:でも良かった、俺も君に会いたかったんだ


売 薬:えっ…


先 生:実はお願いしたい事があってね


売 薬:あぁ…お願いしたい事、と言いますと


先 生:うん、ここではとても言えんのだが


売 薬:…うちの店に来ますか

    今日はもう仕事も終わりなので誰も来やしませんよ


先 生:本当か

    それはいい、早速行くとしよう


〈売薬の経営している薬屋に来た2人〉


先 生:お邪魔します


売 薬:どうぞどうぞ、楽にしてください


(間)


売 薬:それで、何かお困りごとでもあったんですか


先 生:うん、君に頼みたいことがあってね


売 薬:僕にできる事ならなんでも言っていただければ


先 生:君の言う出来る事、と言うのは一体どこまでなのだろう


売 薬:先生のお望みのままに


先 生:人を殺したいと言っても?


売 薬:…何か恨みでも?


先 生:いや、恨みはない

    これは愛に応える、とでも言おうか

    愛ゆえの殺し…


    我ながらおかしなことを言っていると思うよ、現実的ではない

    でも君なら手を貸してくれると思ったんだ、俺のことを理解してくれると


売 薬:…僕は何を知れば?(機嫌を損ねる)


先 生:あまり苦しまずに命を奪う薬を用意できるかい?


売 薬:、1日もらえれば、用意できます


先 生:じゃあ明日の夕方までに用意してくれないか

    …それと、この薬に俺は一切関与していない、わかるね


売 薬:すべて私の一存ということで

    それが先生の望みであれば、喜んで



5日目


先 生:おーい


 妻 :はい!


先 生:今日はまだ買い物には行っていないな?


 妻 :はい、まだ行っていませんよ


先 生:出掛けるついでに寄って欲しいところがあるのだが、いいか?


 妻 :大丈夫ですよ


先 生:俺の知り合いの薬屋なんだが…

    ほら、いつも来る売薬のとこの


 妻 :あぁ、はい


先 生:場所はこの紙に書いてある

    そこにいる売薬に俺の名前を言えば要件は伝わるから


 妻 :わかりました、お急ぎですか?


先 生:いや、急ぎではないよ

    今日の夕飯の買い出しの時にでも行ってきてくれ


 妻 :では、お洗濯を終わらせてから行ってきますね


先 生:頼んだ


(間)


先 生:夕飯も済んだことだし、ちょっとこっちにきてくれないか

    寝る前に話したいことがあるんだ


 妻 :はい、なんでしょう


〈妻が先生の近くに座る〉


先 生:いいかい、これから大事な話をする

    答えを出すのは君だ、嫌なら断ってくれればいい

    …だが、君なら俺の欲しい答えをくれると思っている


 妻 :…はい


先 生:君は結婚が決まる前から俺の為ならなんでもすると言ってくれていたね


 妻 :はい、私に出来ることであればなんでも

    それが旦那様の望みならば


〈先生は微笑みながら話す〉


先 生:今日取りに行って貰った薬があるだろう

    あれは君の薬だ


 妻 :私の薬?


先 生:そう、今回は俺のではないんだ

    飲んでくれるね


 妻 :…これが旦那様のお望みですか?


先 生:そうだね


 妻 :わかりました

    頂きます


先 生:素敵な作品を書くよ


 妻 :はい、旦那様のお役に立てて私は幸せです


〈先生は嬉しそうに微笑みながら、昔を懐かしむように話し始める〉


先 生:君がうちに来てくれてもう3年か、早いものだね


 妻 :私はそれよりもずっと前から旦那様のことを思っていましたよ


先 生:そうだったね 笑

    毎日のようにうちに来ては結婚を申し込まれていたよ

    まさか本当に結婚するとは


 妻 :私は本当に幸せ者ですね

先 生:…怖いかい?



 妻 :いいえ、怖くありません



妻M)

私はこの薬を飲むとどうなるのか分かっていた

でも旦那様のこと

それには何か特別な意味があり、私にしか出来ない事だと思っておられるのだろう

それならば私は喜んで命を差し上げます



6日目


担当者:先生!!


先 生:…あぁ、君か


担当者:本当なんですね、奥さんが…亡くなられたと


先 生:…


担当者:犯人は誰なんですか


先 生:まだ分かっていないんだ

    昨日の夜一緒に床(とこ)について、そのまま


担当者:そんな、何かないんですか、証拠とか何か!


先 生:…そうだ、警察の人たちは毒殺だと言った

    あいつは寝る前に健康にいいとか言って何か飲んでいた

    それだ、あれを飲んだから死んだんだ、あの薬で!!


担当者:先生落ち着いてください!

    詳しく警察の方に話しましょう


(間)


担当者:落ち着きましたか


先 生:あぁ、すまなかったね


担当者:無理もないですよ

    警察はこの辺りの薬屋を調べるそうです

    先生、今はゆっくり休みましょう


先 生:ありがとう、君も忙しいだろう

    俺は大丈夫だから自分の仕事に戻りなさい


担当者:…わかりました、また明日伺います

    先生も無理はなさらず


(間)


担当者:先生、おはようございます


先 生:あぁ…


担当者:こんな時まで締め切りを守らなくてもいいのでは?


先 生:こうでもしてないと落ち着いていられんのだ

    思い出しただけで…


担当者:一旦休憩してこっちで話しませんか

    人と話すのも気が紛れるでしょう


先 生:そうだな、そうするとしよう


〈机を囲んで向かい合わせに座る2人〉


担当者:先生、少し私の話を聞いてもらってもいいですか


先 生:どうしたんだ、そんな改まって

    俺のことは気にせずいつも通り話しなさい


(少し沈黙)


担当者:奥さんを殺したのは、先生なんじゃないですか


先 生:、何を言ってるんだ?

    顔見知りが死んだんだ、君がいつも通りでいられんのも仕方がない

    少し混乱しているんだっ


担当者:先生!!

    正直に言ってください


先 生:本当に俺が殺したと思っているのか


担当者:…はい


先 生:なぜそう思ったんだ


担当者:いくつか引っ掛かることがあるんです


先 生:引っ掛かること?


担当者:奥さんが、亡くなられた原因の薬を手に入れるには売薬が来た時か薬屋に行った時だけ、どちらにしろ先生がいつもお世話になっているあの売薬しか入手源はないんです

    薬屋が薬を間違えることなんて滅多とないでしょう、というかあったらおおごとです


    先日、先生と売薬が2人で歩いているところを見たんです

    ただ仕事終わりに飲みに行っていただけかも知れない、別におかしな点は一つもない

    問題はそこでも会話です

    締め切り間近の作家、ましてや今まで期限を破ったことのない先生が、呑気に飲み歩くなんてことしますか

    何か話さなければならないことがあったのでは?


先 生:丸々1週間原稿と睨めっこもしんどい

    息抜きくらいしてもいいだろう


担当者:ではそこで売薬と何を話していたんです


先 生:何と言われても、内容も覚えていない世間話さ


担当者:…そもそもあの日先生は本当に飲みに行かれたんですか


先 生:君はさっきから何が言いたい、俺を無理やり犯人にしようとしていないか

    第一動機がないだろう、憎かった、自分を選んでもらえなかったという理由で君や売薬が殺してもおかしくない


担当者:…


先 生:俺が原稿を進めている間君はよくあいつと話をしていたじゃないか

    そうしているうちに好きになって…なんてのもあり得る

    俺に何か恨みでもあるのか?


担当者:とんでもない、ただ気になっただけです

    この事件について考えれば考えるほど先生が怪しく見えて、違うと証明したくて!


先 生:…君の推理はこれで終わりか?


担当者:最後に一つ

    奥さんが健康にいいと言って怪しい薬を飲むところを見て、多少なりとも止めはしなかったのですか


先 生:止めはしたが、聞く耳を持たなかった

    まさか命を落とすものとは思わなかった


    君の話しで一番怪しいのは売薬じゃあないか?

    今頃は警察に囲まれていたりしてな


〈電話がかかってくる〉


担当者:電話…


先 生:案外当たっているかもしれんぞ

    この電話は警察からの犯人逮捕の連絡


    もしもし、はい、そうです…そうですか、わかりました

    準備をして向かいます


先 生:本当に警察からだったよ、犯人が捕まった

    俺の話を聞きたいと言われたので今から行ってくるよ

    君はどうする、ここにいるかね?

    …どうした、俺の机の前で固まって


担当者:先生、この原稿に書いてある話は先生が作ったものですよね


先 生:そうだが?


担当者:お手本はなく、一から考えられたものですよね


先 生:そうだと言っているだろう


担当者:だとしたら、やっぱり犯人は…


担当者:さぁ、どうだかな



担当者M)

後に先生の書いた作品はベストセラーとなった

執筆中に起こった事件はそれほど大きな話題にはならず、先生を疑う人は誰1人として現れなかった

先生は作家としての人生を大いに満喫したのだ


私は、長年付き添ってきた先生の作品がやっと世に放たれた嬉しさに、先生の所業には目を瞑った

念願のベストセラー作家の担当者になれたのだ



あとがき

作中に書いてある日にちを妻または担当者役の方に読んで頂けると、場面転換がよりわかりやすいのかなと思います

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作家人生幕を開く 藤崎 @fujisaki_mjkk

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