第45話 不目根田町 攻略作戦ー9 ダンジョンボス

 どれくらい経っただろうか。


 現在、不目根田町の住民たちは、ミナのよびかけを聞いて塔の前に集まり、アラタが塔の攻略を終えるのを待っていた。


 その間、町民たちは、ダンジョン化現象について現在わかっている情報を共有しあっている。


 アラタが塔に入ってから10分ほどの時間が経過していた。


 町民の何人かが「俺も加勢するぞ!」と言い始めた頃、塔からさっきまで感じていた不快な圧が消えていくのを感じる。


 あくまでさっきまで感じていた不快な圧が消えただけであって、まだ、塔から圧が消えたわけではない。そして、ミナはこの圧の正体を知っていた。


「お兄ちゃん!!!」


 ミナは塔の通路の奥から片腕くらいある巨大な鍵を持って出てくるアラタを発見する。


 町民たちが塔の扉の前を囲うようにして見守る中、アラタは塔から脱出した。


「───塔のモンスター・・・中ボスは倒しました。


 残るはダンジョンボスだけです。」


 アラタは町民たちに向けて説明する。


 アラタが早めに街に到着したことで、町民たちがダンジョン化についてあまり情報を得ることができていないという事態が発生していた。


 そのため、アラタが今何が起きているのか説明して町民たちを落ち着かせる必要があったのだ。



「──ってことは今より強いのをさらに倒さなきゃいけないってわけなのか!?」


「逆に考えろ次で最後だ。」


 町民たちが口々に騒ぐ。


 アラタが早々にモンスターを一掃してしまったため、緊張感を持っている町民は少なかった。


 少ないと言っても、今までに比べればというだけで、特に被害のあっていない、全体の3分の1くらいが騒いでいるくらいだ。


「すぐ終わらせます。ここで待っててください。」


 アラタはそういうと神社の方へと急ぐ。


 というのも、ダンジョンリミットが迫っていたからだ。


 前回まではダンジョンにアラタが到着するのが遅かったというのもあるが、すぐにダンジョンリミットが訪れて化け物が街に出現する事態になった。


 今回はかなり早めに街に到着することができたものの、塔のモンスターの討伐にだいぶ手こずってしまっている。


 塔のモンスターと戦っている最中、改めてアラタはこの不目根田町のダンジョンの鬼畜さを痛感していた。


 100レベルがどれだけ異次元の強さなのかはアラタでもわかっているつもりだ。


 そこまで到達するには、膨大な数のモンスターを倒さなくてはならないということも。


 アラタが得た力は───レベル100に達した人間の力は、地球を粉々にするには十分なパワーを持っていた。


 が、それでも塔の中に鎮座していたモンスターはしぶとく、発する攻撃はアラタに傷を負わせることができるようなものばかり。


 アラタは、「はじまりの竜剣」と「はじまり短剣」を両手にもち、「奥義」を活用してなるべく複数のモンスターに同時に攻撃を与えるようにしつつ攻撃を行った。


 武器自体のレベルは低く、大して強いものではないはずなのだが、本体のレベル100という異次元のレベルのおかげで、剣自体が弱くとも、モンスターには簡単に致命傷を負わすことができる。


「奥義」で飛ばした斬撃は飛ぶ飛距離こそ短いものの、レベル100の人間の斬撃なので、斬撃を喰らったモンスターたちの巨大な胴体は真っ二つになった。


 だが、このモンスターには「ギミック」が存在しており、左右の朱雀のようなモンスターたちは同時に絶命させなければ何度でも蘇るという能力を持っていることが分かった。


 見たことのないこの特殊な効果について理解するまでに時間が少しかかり、故にアラタは手こずり、やや討伐に時間をかける羽目になる。


 加えて、もうアラタは簡単にレベルが上がる状況ではなく、致命傷を喰らってしまえば回復の手段がないため、慎重に戦わざるを得なかった。


 アラタは、「はじまりの短剣」の奥義を用いて速度を少しでも上げ時間はかかってしまったものの、無傷での討伐には成功する。



 が、無事に塔のモンスターを倒した時、そこのアラタにあったのは喜びや達成感などではなく、怒りであった。


 町民たちを閉じ込め、10レベル台では絶対に討伐不可能なモンスターと戦わせるように仕組んだ世界にアラタは殺意を抱く。


 レベル99でもこの状態なのだ。レベル50では一人でこのダンジョンは愚か、中ボスを倒すことができるかも怪しい。


 レベル50でも決して低いレベルでは───強さではないはずなのだ。


 ───ふざけやがって・・・


 この世界のどこかで、アラタのような状況に陥ってしまった町が他にも存在しているということは容易に想像できる。


 そこにはアラタのような人間もいない。


 オンリースキルというのがどれほど残酷なものなのかここでアラタは実感する。


 ───せめてこの町の人間だけはちゃんと救わなければ・・・


 アラタはさまざまなことに思いを馳せ、拳を握りしめながら山道を駆け抜ける。


 ダンジョンボスのいる神社に到着すると鍵を使ってダンジョンボスのいる空間を開け放ち、はじまりの竜剣を携えてその空間へと勢いよくアラタは飛び込んだ。




 ・




 ・・・おかしい。


 ダンジョンボスの広間に飛び込んで現在数分が経過している。


 広間に侵入すっるや否やダンジョンボスの激しい攻撃が始まり、激闘が瞬時に幕を開ける。


 アラタは両手に武器を───はじまりの竜剣とはじまりの短剣をもち、「奥義を使用しながらボスの攻撃を避け、相殺しつつ攻撃を加えていった。


 そんな戦いの中、アラタは困惑している。



 切っても切っても、殺しても殺してもダンジョンボスの首は再生するのだ。


 すでにアラタは何度もダンジョンボスの複数ある不気味なその首を剣を使って刎ねている。


 首を縦に真っ二つにしてみたりもした。


 が、ボスの体は瞬時に再生を続ける。


 同時に切り落とさなければいけないものなのかと思ってアラタは同時切断を試み、はじめての竜剣を用いてなんとか成功させるが、それでもダンジョンボスの九つの首は瞬く間に再生し、命を吹き返した。


 アラタは狼狽えるも、体の動きを止めている暇はない。


 再生を始めた首から光線のようなものが飛んできてアラタの頬を掠めていく。


 頬からは血が垂れ、それはまともにこの光線を喰らうと、致命傷になるということを示していた。


 ──首がダメなら全身をっ・・・


 アラタは首だけでなく、体力を振り絞りダンジョンボスの全身をミンチにし、さらに細かく切り刻むとそれらを吹き飛ばして塵にするがそれでもダンジョンボスは蘇った。


 ここまでしても何も効果がない。


 アラタは100レベルだというのに息を切らし始めていることに気づき、冷や汗を流す。


 すると追い打ちをかけるかのように後ろから声が聞こえた。


「!?何をやってるんだっ」


 アラタの後ろには、ボスのいる広間の前でワラワラと固まって動く町民たちの姿が見える。


「ダンジョンリミットってやつが表示されてよ、なんか化け物が街に出てきたんだ!」


 町民たちの群れの中の誰かがアラタに向かって叫ぶ。その声には悲壮感が漂っていた。


 アラタの目の前で再生していく巨大なダンジョンボスを見て町民たちは後ずさる。


 もう町民たちの中に軽口を叩くものはいなかった。


 ダンジョンボスが再生し始めると同時に、ダンジョンボスのいる空間内にボスの圧が道ていく。


 ───不味いっ


 アラタにとってはなんともないものだがそれは町民たちを皆殺しにするには十分なものであった。


 アラタは再生途中のダンジョンボスにきりかかかり、再び無に帰していく。が、切った端から再びダンジョンボスは再生をする。


 もうキリがない。


 流石のアラタといえども自分の体が疲労を感じているのがわかった。


 ───不味い不味い不味い


 アラタは、ダンジョンボスの再生を阻止することに精一杯でろくに考えることもできなかった。

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